かいちょーさんとふりょーくん③【完】

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(睫毛長ぇ……クソほど色男でムカつくぜ……まぁ、好みだけどよ……) 「は、む……」 (ああああバカ、ンなエッロい顔で人の指しゃぶってんじゃねぇ……! 夢中で咥えるモンじゃねぇのにアホかよクソ……マジでエロい……マジでヤベェ……) 「んぁ……ん」 (っぅ、わ……赤い、舌、が)  ぴちゃり。  身震いする指を、明菜の赤い舌が艶めかしく音を立ててなぞった。  指紋の波まで味わうような舌使いだ。食事中だったことが幸いした。  料理に手をつける前にきちんと除菌されたおしぼりで手を拭いた自分を、黒澤は全力で褒めたたえてやりたい。  はっ、と熱い吐息が手を温める。  鋭敏になった指が舌に触れると、独特の感触を生々しく伝える。 「……ふ」  分泌された唾液をジュルリと吸い、嚥下すると、明菜の喉仏がゴクリと確かに上下した。  それは邪な黒澤にとっては、あまりにも性的な光景である。  脳内フィーバータイム。  茹だった頭がクラクラと目眩を起こして、血が滾り、妙なスイッチがバチンと入ると──黒澤はもうダメだった。 「あき、な」 「ふ、ん……?」 「お前……」  グイッ。 「んぁ?」  ほぼ衝動的に、黒澤は明菜の腕を掴むと強く引っ張り席を立たせると、その腕を掴んだまま無言でズカズカと食堂の外に向かった。  ズバン! と開いた扉が、バタン! と二人を飲み込んで閉まる。  その瞬間──食堂に残された生徒たちがめいめいに嘆き、歓喜し、カオスの満ちた阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる。 「ほら言ったでしょう? 黒澤様はやる時はやる肉食系タイガーヤンキーなんですから、会長受けは固定なんですよ」  漫研部長は満足気にニヤリとほくそ笑み、一人誰も知らない核心を突くのであった。   ◇ ◇ ◇  人気のない場所のトイレの一室。  ガチャン! と鍵をかけられ、食堂から黒澤に引っ張られて封鎖空間に押し込められた明菜は、目を白黒させて自分より少し背の高い男を見つめた。  明菜の肩をぐっと掴んで壁に押しつけ、俯いたままの黒澤。  明菜と黒澤の身長にそれほど差はなかい。しかし筋肉の密度には些か無視できない差がある。  明菜とて全ての面で秀でた男であれというルールに則り体力や筋力を鍛えているものの、ただ鍛えているだけだ。  表舞台に立つ場合は護衛がつく。戦闘の経験値は皆無。予定もない。 「く、黒澤……?」  力で勝てない相手なのだ。  喫煙者のくせにバケモノ体力の武闘派ヤンキーを押し返せず、明菜は様子のおかしい黒澤を訝しみつつも声をかける。 「…………」 「おい、黒さ、っん」  すると黒澤はいきなり顔を上げ──自分の名を形作ろうとした明菜の唇を、自らのそれで覆うように塞いだ。  ぎょっと目を見開く明菜。  なぜキスをされているのか。  それを考える時間もなく歯列を割られ、熱い舌がヌルリと入り込む。 「んんっ、は、くろ、っん」  反射的に逃げようとするが両手を壁に縫いつけられ逃れられず、声をかけようにも黒澤の唇が生々しく吸いついて離れない。  トイレ内にピチャ、チュク、と響く水音と熱っぽい吐息。  荒々しさを増す舌使いに、喰らわれているような気さえする。 「ンッ……ン、……ッ」  ピクンッ……と掴まれた手の先が弾み、もどかしげに握り込まれた。  巧みに明菜の口腔を貪る黒澤の舌は、次第にじわじわと明菜の官能を炙り、本能的に追い詰めていく。  今度は明菜が焦る番だ。  黒澤の意図がわからない。  わかることはなぜか黒澤にキスされていて、黒澤が怒っていること。 「黒澤、っむ……く、ぅ……っ」 「ン、はぁ……おい明菜」 「は……っなにを怒って……」  チュプ、と最後に強く絡みついてようやく離れた黒澤に、明菜は困惑から殊勝な態度でおず、と伺った。  黒澤は視線で明菜を嬲る。  赤らんだ頬。唾液で濡れた唇。乱れた呼吸。くしゃくしゃの髪。いつもよりしおらしい目つき。  その普段は決して大人しくしない男が、両腕を壁に押しつけられていながら子猫のようにこちらの機嫌を伺う様に、黒澤は猛烈にイラッとして強めに舌打ちをする。  なぜって、ギュンとしたから。  こういう時は死ぬ気で抵抗しろよコラ、と理不尽な怒りが湧く黒澤。 「チッ、散々人の指エロ顔で舐めやがって……お前も、俺に舐められろ」 「ん゛?」  その後。しつこいくらいに口付けを繰り返された明菜は、黒澤のスイッチは金輪際入れまい、と胸に誓う。 (ちょっと勃った……!)  キスだけで感じた自分の舌の感度も、胸の奥にしまったのだった。  了
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