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「今日はなにを食べるべきか……昨日は和食だった」
「じゃあ洋食でいいじゃねーか」
「いや、中華も捨てがたいぞ」
「好きなもん食えばいいだろーが!」
今日も今日とて元気な二人組、会長・明菜と不良・黒澤。
もうこの二人組は学園中が認めるコンビだ。なんやかんやといつも夕食を共にしている。
そんな二人組は周りの女系たちの悲鳴をものともせず、食堂に行く予定だった。
だった。過去形だ。
なぜか? それは明菜の近くにいた明菜親衛隊の一言による。
「明菜様だっ」
「すっご、近い!」
「抱いてほしい〜っ」
「…………」
「? 明菜?」
ピタ、と明菜の足が止まった。
そして顎に手を当て、クールで麗しいらしい面差しで思案する。
突然の立ち止まった明菜に倣って足を止めた黒澤は、訝しく隣に視線をやった。
しかし明菜は返事もせず、グルリと踵を返して自分に歓声をあげる生徒たちの元へ向かう。
アイドル扱いの明菜の接近にギャーッ! と生徒たちが湧いた。
笑いどころである。
黒澤は驚き、明菜の後を追う。
彼を一人解き放つほうが後々大変だと、黒澤は熟知している。
明菜は一人の生徒の前で足を止め、帝王らしく悠然と声をかけた。
「おい」
「お、お顔がよろしい……っ」
「ちょっとしっかりしなよ! 明菜様にお声をかけられてるんだからねっ」
「僕もう死んでもいい……!」
「なに言ってんのー!」
途端、興奮のあまりくらりとよろめく生徒(仮にB)とその生徒を抱きとめてテンパる生徒(仮にA)。
「……おい明菜。お前の親衛隊ってみんなこんな感じなのか……?」
「? あぁ、こんな感じだな」
「そうかよ……」
兄貴! と慕う仲間たちにはいないタイプにげんなりする黒澤だが、明菜にとってはこれが基本のノリらしい。
至近距離で拝む明菜に恍惚としていた生徒Aは、友人である生徒Bに支えられなんとか立ち直った。
「な、なんでしょうか明菜様……」
「少し聞きたいことがある」
「……嫌な予感が」
ゴクリと身構える黒澤。
そして明菜が、心底興味深そうにしみじみと口を開いた。
「抱かれる側とは、そんなに気持ちいいものなのか?」
「「へ!?」」
「あぁ!?」
そらみたことか。やらかした。
絶望的なことに、どうやら黒澤の嫌な予感はよく当たるらしい。
素っ頓狂な声をあげた三人を後目に、明菜は「いやな」と一人続ける。
「〝抱きたい〟は俺も男だからわかる。幼い頃はよくモノ好きな変態に狙われていたからな。成長期が猛威を振るってからはとんと減ったが……」
「代わりに集会や普段の道すがら、噂話やヒソヒソキャッキャで〝抱かれたい〟と散々言われるんだ」
「呼び出されて開口一番抱いて下さい! なんてこともザラにある。開口一番だぞ? 挨拶もなくな」
「よって俺は〝抱かれる側はよほど気持ちがいいらしい〟と結論した」
詳しいヤリ方は知らんが、と涼しい顔でケロリとボヤく明菜。
言っていることは中学生男子とだいたい同じ。ただの猥談だ。
会長様が無駄に男らしく堂々と語った知的好奇心と探究心の矛先は、他人のイチモツと自分のケツである。
尋ねられた生徒二人は、戸惑いながらも明菜様に答えを! の一心でうーんと親身になって考え込む。
その状況を静かに見守る黒澤は、ああああ、と内心で頭を抱えた。
──男同士のセックス。
ついに黒澤の懸念すべき事柄に、明菜が興味を持ったのだ。
今まで本番行為一歩手前のニアピン行為は多々あった。
フェラチオ然り指舐め然りキス然り。それでもどちらかがどちらかに突っ込む、などと直接的な行為の一線は超えなかったはずだ。
それもこれも、明菜が抱いて抱かれてという行為に興味を持たなかったことが大きな理由にある。
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