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俺の名前は中町 格子。
見た目は黒髪短髪長身細マッチョが自慢のスポーツマン。
爽やかかと聞かれれば答えはノー。
笑顔が苦手なので仏頂面と困り顔が八割のヘタレ属性だ。スポーツマンがみんな爽やかだと思うなよ。偏見だぞ。
っと。そうじゃないそうじゃない。
突然だが、俺は諸事情により転校することになった。突然どころか脈路なしだが気にしない。
まったく普通の公立高校から、山奥の私立高校へ。しかもなかなかクセつよな全寮制男子校。正直泣きそう。
大好きなバスケも足の故障により泣く泣く手放し彼女にもフラれ、悪友たちにはケツ掘られんなよ〜と散々からかわれながらクソ難しい編入試験のために勉強しまくり、嫌々渋々転校してきた。
早くも泣きそうだ。
あぁでも泣きそうなのは、ここに至るまでの切ない話のせいだけではない。
「……ここどこだよ」
齢、今年で十七歳。
立派な体躯の男子高校生にして、見事に迷子になってしまったからである。
神よ、笑うなら笑え。
どうせここには俺以外誰もいないんだ。悲しいことにな!
無駄に大きすぎる学園の敷地の中、孤独な俺は途方に暮れる。
信じられるか? 門から徒歩三十分かかる校舎なんて。山をまるまる買って作った学校らしい。
いや買ったからって全部学校として使わなくてもイイじゃないか。おかげで俺は迷子だぜ。遭難と言っても差し支えない。
反応の鈍い左足をずるずると引きずりながら、俺はトボトボ歩き続ける。
肩にかかったスポーツバッグが異様に重く感じた。そりゃかれこれ一時間歩いてるからな。バーカバーカ!
思い返せば今日は休日なので校舎には誰もいなかったからと、人を求めて外に出たのが間違いだったのだ。
なんだこの雄大な森は。山を削ってむりくり建てたのかこの校舎。
にしたって自然を生かす方向で頑張りすぎだろう。匠の粋な計らい過ぎる。
「今日は先生に挨拶して、寮に案内してもらうだけだったはずなんだけどなぁ……はあー……」
溜め息が重たい。
行けども行けども森と見覚えのない似たり寄ったりな校舎。職員室はどこなんだ……。
「というかこれは迷子なのか? 俺としては遭難している気分な──」
ガシャンッ!
「い゛ッ!」
──……はい?
いきなりの理解できない展開に襲われ、俺はポカンとマヌケに硬直した。
よし。少しずつ理解しよう。
俺がただ曲がり角を曲がるためにひょいと校舎らしい建物の壁から顔を出したら、なにかを巻き込む音がしてだな?
出した顔の真横にぶっ飛んできた見知らぬ男が、呻きながら壁に背中から激突した。
うん。理解できない。
嘘偽りなくこの通りなのになに一つ理解できない。なんで嘘偽りがないんだあってくれないと怖いじゃないかバカバカバカ。
視線をそ〜っと呻き声のほうへ移して確認する。飛んできた男は意識を失っている。制服を着ているので生徒なのだろう。
な……なんなんだ……?
呆然と伸びている男を見ていると、バキ、と枝を踏む音がした。
びくっと肩を跳ねさせ、慌てて音のした方向を振り向く。
そこには男と同じように、何人もの生徒が地面にふせって伸びていた。
無双系ゲームの敵キャラみたいだ。
みんなカラフルな頭をしていて、制服を着崩している。彼らはいわゆる不良というやつなのだろうか。ヤンキーだ。
確かに外出もままならない全寮制の男子校で欲求不満は募るだろうし、一般的な高校よりやんちゃな集団は多いと聞いた。
だからって、わざわざこんな場所でデスマッチをしなくてもいいと思う。
健全にスポーツで発散してくれ。
バスケとかどうかな。俺の青春だぞ。
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