トコフェロール①【完】

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  ◇ ◇ ◇ 「……ってなことがあったんだ」  転校初日から、一週間。  ようやくこの自然あふれすぎる男ばかりの男子校にも、おっかなびっくり慣れてきた今日この頃だ。  心に余裕ができたので転校初日に起こった災難の話をすると、この学園での初めての友人──クラス委員長の野中(のなか) 道久(みちく)は、げえっとカエルが潰されたような声を出した。  おいおい。綺麗な顔が台無しだぞ。  男子校のオアシス基去年の女装ミスコン優勝者様よ。  サラリとした栗色の髪を揺らすジャネーズ系の愛らしい顔立ちをした野中は、美少年好きに大人気である。  インドアで小柄だから余計にだ。  ジト目の無表情じゃなかったらもっとかわいいのになぁ、と俺も思っていたり。  実のところ、この学校はちょっとホモとバイが多いのが特色だ。  ちょっとというか、かなり多い。  あちこちで惚れた腫れたのやりとりが行われているし、セーフティながらあけすけに抱いた抱かれたという話をしているのも聞いている。ノンケの俺としては、未知の世界だ。  とはいえ俺は人様のセクシャリティに偏見がないのであまり気にはしていない。他人事だからな。  ここでそういう人たちに触れるまで、男を恋愛感情で見ようと思ったことはなかった。俺がどうとかいうのはまだよくわからない。  現時点では対象になるのはご遠慮願いたい派だ。清い体で卒業すると心に決めている。  うーん……もし仮に彼氏ができたとしても、抱かれるのはやだな。だってかなり男気がいるだろ? 女役をしている男はむしろ男気のあるヤツらなんじゃなかろうか。  真剣に男がアリか考えた結果、俺は抱くなら野中みたいなかわいい系がいいなと思った。  できれば股間にアレがなければいい。  できれば女の子がいい。  閑話休題。  現実逃避とも言う。  昼休みの今は食堂に行くのが面倒で、俺と野中は一緒に教室でパンをかじっている。  そして食事のおともに世間話として初日の事件を話したら、野中が美形にあるまじき顔になったのだ。  チュー、とパックのいちごミルクを飲む。ううわ、これはうまい。今度から必須だな。いちご大好き。 「お前……なんつーのと初日にエンカウントしてんだよ。よくも無傷だったなあ……」 「え? や、やっぱ危ないやつだったのか……?」 「危ないもなにもイカレた狂犬ってんで知らねぇやつはいねぇよ」  野中の呆れた言葉に思わずいちごミルクを吹き出しそうになったが、どうにか我慢した。  どうやら蔵はイカレた狂犬として、校内で名をはせていたらしい。  喧嘩中にエンカウントして無傷なのが奇跡レベルの危険人物なんて全力でお断りだ。 「まぁ普段は大人しいただの超変人。独特の雰囲気? ってかペースがあんのか、常識知らずで頭のネジぶっ飛んでるから理解不能。教師の言うことも聞きゃしねぇ」 「ただの変人ってなんだよ。変人の時点でただのじゃない」 「いやほんとに変」  心して聞けとばかりに居住まいを正す野中。俺は噴き出さないようにいちごミルクのパックを机の上に置いて、話を聞く体勢を取る。
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