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「まず普通に趣味嗜好が変なんだよな」
「普通に変ってなんだよ」
「いや俺さ、体育大会でアイツの弁当見たんだけどヤベえぞ? 鳥胸肉一枚と焼き魚。それにケチャップとマスタード、べちゃべちゃんなるまでかけてさ」
「まずそう」
「まずいと思う。一応栄養は気にしてんのかして野菜も食ってたぜ。人参もセロリもアスパラもたまねぎも、味付けなしで生のままかじってた。そんなんだから、あいつ物食うのすっげー遅いのよ。歯科検診でひっかかってんのは見たことねーわ」
「野生児か。よく今まで生きてたな……」
「野生児よりは進化してる。おにぎりだけは普通だったぜ。うまいこと三角に握ってた。好奇心でのぞき見したら、具は高菜だった。渋いな……」
「そんなの今更かわいげにもならないからな。おにぎり以外が悲惨だ」
野中はしみじみと腕を組んで頷くが、聞いている俺はドン引きに決まっている。
というか野中はなんで好奇心でのぞき見したんだ。怖いだろ。絶対怖い。
こんなにかわいい顔して中身がマイペースでオラオラすぎる。たくましい。
「一ヶ月前もな、授業中突然窓から飛び降りて、騒然としたぜ。そこ、三階だったんだ。まあ木をうまく使って着地したらしくて、ケガ一つなかったんだけど……理由、なんだったと思う?」
「えぇ……想像もつかない」
「『夢見が悪かった』らしい。どんな夢見たら窓から飛び降りんだよ。それで当人はいつも通りの鉄仮面でアリの巣に角砂糖積んでたけど」
「なあ俺もカエルが潰れたみたいな顔になってる?」
「セーフだよ。ギリイケメン」
「よかった」
「まだ続きあるけど」
「うげっ」
それから呻く俺に容赦なく語られる蔵の話は、どれもこれも信じがたいものだ。
普段の蔵は、野中がさっき言ったとおりらしい。
むやみやたらと人に迷惑をかけるってわけじゃない。
この学校の理事長が目にかけてるというのもあるが、一応授業も出ている。体調不良だとか休む理由がない時はきちんと遅刻も欠席もしないのだ。
けれどなにが危ないと言うと、変なところでスイッチ入るそうだ。
前ふりがないのでなにが気に障ったのかわからない。
わかりやすかったのもあったらしいが、そうじゃない時もある。
蔵のスイッチが入ると、周りにいる人間が全員倒れるまで取りつかれたように暴れてしまう。教師だとかも関係なくとにかくボコボコなのだ。
体も大きく怪力で素早いため、誰も止められない。スイッチが切れて静かになるまで、逃げ惑うしかなくなる。
とはいえおバカなのでその場に倒れて死んだふりをしていれば無害らしい。死んだふりをする前に殴られると実際にダウンだが。
俺は流石にそれは蔵が極悪人だと感じたが、野中曰く、そうではないそうだ。
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