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実は蔵本人も、自分の身体能力の制御が利かないそうなのだ。
一見スマートな男に見えて服の下には並外れた怪力を生む筋肉がある。
おかげでそれを支える骨が軋み、人間性に多少の歪みが生じた。という噂。
だからこの隔離じみた学校にしか居場所がない。蔵の親が大金を払って入れたためここにいるという。
勉強も部活もレベルが高いこの学校は、生徒数が多い。一人くらい変わった生徒がいてもいいと思う。
というのが、生徒たちや教師陣の見解だ。
にしても変わりすぎだけどな。
スイッチさえ入らなければ無害なので、近づかなければいいと言われた。そういう問題なのかな。うーん。
理由は不明だけど、望んで力が強いわけじゃない。しかし蔵はすぐに物を壊す。規格外の怪力だ。
頭のネジがぶっ飛んだ蔵にはその自覚がないまま、破壊神と化してしまった。
実験では器具を壊すので強制見学。体育は独壇場すぎてチームメイトすら逃げ惑い、運動部からも出禁を食らっている。
なんとバスケットのゴールを壊したそうだ。お、俺の青春の舞台が……!
「あとこれは噂だけど、スズメとかネズミとか、捕まえて殺すんだとさ。握り潰すらしい。これほんとイカレてる」
「もうおなかいっぱいだ、野中……」
「イケメン崩壊だわ。顔青いしひきつってっし。そんなやべえやつに絡まれてたわけ、お宅。おわかり?」
「あばばばば……!」
潰れたカエルを通り越して血の気が引いた俺は、食欲がなくなってカレーパンを野中に押しつけた。野中は素知らぬ顔でそのパンの袋を開けてかぶりつく。
「お、うまいなこれ」
呑気なやつめ。
人の気も知らないで。
ちゅーっといちごミルクを飲みつつ潤んだ瞳で睨みつける。だめだ、効いてない。
しかし……蔵という男はそんな危ないやつだったとは。
俺はそんな男に出会って無傷で生還したのか。勲章ものじゃないか? うん。俺、偉いぞ。だが二度はないだろう。
自分を戒め、固く自重する。
非暴力主義の俺とは対極に位置する、凶暴な野良犬。君子危うきに近寄らず、だ。関わることなく逃げ続けたらいいはず。
「なあ野中、蔵はどこのクラスなんだ?」
「このクラスだけど?」
「冗談はやめろよ!」
「冗談じゃねーし。顔必死すぎだろ、不覚にも笑ったわ」
野中は笑ったといいながら、相変わらず面白くなさそうな顔をしている。
俺は必死なのに酷い。酷すぎる。
というかそういうことは早く言っておいてくれないか!?
「俺まだ出会ってないぞ?」
「あの、ちょっと離れたとこにある席あるだろ? あそこが蔵の指定席。今はなんかまた暴れたらしく、一週間特別指導。お前と出会ったあとだろうから……明日には登校してくるだろうな」
そういって野中が指さしたほうを見つめると、窓際一番後ろというベストポジションで、そこかしこがかけたぼろぼろの机だった。
いや──俺の席の隣じゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
「明日休んでもいいかな」
「英語の小テストを逃してもいいならな」
「うがががががっ!」
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