トコフェロール①【完】

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 ──翌日。  教室の中がざわざわとざわついている。もうすぐ先生が来る時間なんだから静かにしてほしい。  そう胸中でごちる俺の半径一メートルに、無人サークル形成中。  野中に視線を送ると、あいつ机に突っ伏して死んだふりしてやがる。あとでちくわパン奢れよ。薄情者め。  たらり。  頬を嫌な汗が伝う。 「格子、なでろ。みかんやる」  俺の傍らにいつかと同じように座り込む、大きな男。  相変わらずぼさぼさな髪が目元を覆っている。その隙間から覗く、鋭いが無垢な瞳。無駄に整った造形の顔がにんまりと笑う。  蔵 巌城。  学校一の超変人。  笑みを浮かべた蔵は、呑気にみかんを二つ両手に遊ばせ俺に差し出していた。  あんたが原因でこんなことになっている、とは言えない。俺はヘタレ。どうしようもないのでぴきぴきと青ざめつつ蔵に向き直る。 「く、蔵……」 「イワキ」 「へ?」 「巌城。俺の名前だ。格子は爺さんだな。こないだ教えたろーが」 「はあ……」 「ちゃんと、呼べ。俺が格子でお前が蔵じゃあ、おかしいだろ? フェアじゃねえよ。みかんをやるに値しねえ。せいぜいリンゴだぜ。リンゴじゃ足りないよ、な?」  いやいや、フェアとかどうのとかの話ではないと思うが。  みかんをもらうに値することとはなんだ。リンゴはみかんの下のランクなのか?  不満げな蔵、じゃなく巌城。  炸裂する巌城ワールド。  というか頭の中はどういう構造になっているのだろうか。言っている当人は、どうにも本気らしい。  俺は遠巻きにこちらを見てざわざわひそひそとしているクラスメートをちらりと見つつ、こっそり溜息を吐く。  って先生きてるじゃないか!  来ているなら止めてくれ! HRが惜しくはないのか……!?  視界を巡らせた時に教室のすみに担任の姿を見つけて、俺は内心机をバンバンと叩いて抗議した。  担任は気の弱い男だがあんまりだ。  脳内の抗議は当然届かず、担任は動かず。山の如し。  俺はもう一度溜め息を吐いて、おそるおそると巌城に向き直る。 「い、巌城……?」 「金メダルだ」 「……そうか。ありがとう」 「明日はスイカだな。トロフィーだ」 「スイカは……やめてくれ」 「くく、じゃあぜぇんぶジョウダンだ。スイカ、うまいのによ。つまんね」  つまんねと言われましても。  教室にスイカを持ってきたら流石に対処に困る。まさかスイカ割り大会を開くわけにもいかない。  金メダルと称されたみかんを受け取りつつ、笑うのが下手なので笑顔にはならずに仏頂面でお礼を言った。  二つのうちの一つのみかんを俺に明け渡した巌城は、上機嫌で手元に残ったもう一つのみかんに皮ごとかじりつく。
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