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時は流れ──放課後。
俺はいつも通り寮へと戻る道を野中と歩くべく、居眠りをしている野中をユッサユッサと揺り起こした。
「おーい、おい。野中、帰るぞ」
「……んが。っべーむっちゃ寝てたわぁ」
「美少年。涎。涎垂れてる」
「っべー」
体を起こした野中は、ごし、としわくちゃのハンカチで口元を拭う。
いつから入れっぱなしなんだ? そのハンカチ。しわしわすぎる。
男子生徒の視線を集めて廊下で「お、みっくんだ」なんて頬を染めて見られるような美少年が、中身はおっさんだったりした。
クラスメイトは知っている。知っていてマスコットキャラクターらしい。
そして野中の純ケツは清く、バリタチらしかった。無敵のギャップマンだなもう! いっそかっこいい!
「早く寮に戻ろう」
「ん」
内心でイイネを押しつつ野中にカバンを手渡すと、それを受けとった野中はガタン、と立ち上がった。
俺たちの住む寮にはグレードがあって、お金持ちの息子なんかはハイグレードな一人部屋に住んでいる。
至って普通なご家庭である俺は、もちろん普通の相部屋寮だ。
なにを隠そう、仲良くなったこの野中が俺の同室者なのである。奇跡的すぎる。
というか相部屋だから仲良くなってたまたま同じクラスだった、が正しいか。
授業も終わり、テスト週間が近いということで人も疎らになった教室。
そこから出ようとドアに手をかけた時──そんな俺を後ろからガシッと覆いかぶさって確保する狂犬がいた。
「ヒェッ」
「格子、アカテンを倒すぞ」
フゥ、と硬直する耳元で色っぽい声を出して誘うのは、案の定狂犬こと巌城だ。
アカテン、赤点。
ってまさかこいつ、あれからずっとそのことを考えてたのか……!?
鳥肌全開で岩と化す俺が野中に視線をやると、その小さな背中は廊下の向こうへ消えていくところである。
またしても薄情者め。
巌城が近づいてきたのを察知した途端、スタートダッシュをキメたのだ。
「数学の勉強を、するんだろ?」
「あわわわわ……っ」
しかしそれを儚む間もなく巌城の手がスルリと俺の腰に回り、徐々に強く抱きしめ始める。
あ、これは、まずいやつだ。
止めないとへし折れるやつだ。
「ま、まてまてまてっ」
俺の肩口に顎を置いて頭を頬に擦り付けてくる巌城に慌ててストップをかけると、巌城はビタッと静止した。
相変わらず極端な男である。
止まる、というとその状態で固まるのが巌城だった。
これ幸いと肩掛けのスポーツバッグを前に寄せ、肩を竦めてそーっと巌城の腕の中から脱出。
固まったままこちらをじっと見つめる巌城に下手くそな笑みを浮かべ、廊下の先を指さす。
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