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「図書室へ行こう。勉強は図書室ですると、捗るんだ」
「としょしつ。あぁ、図書室。静かに、本を読むところだ。勉強をするとこじゃねぇよ」
「珍しくまともだなぁ。図書室は静かに本を読むところだけど、勉強してもいいんだぞ」
「勉強してもいい」
オウム返しに繰り返した巌城は、ニンマリと笑うと、俺の夏服の胸ポケットに指をひっかけ、引っ張りながら歩き出した。
わかってくれたらしい。
ふぅ……図書室へ行かせるのも一苦労だな……それにしても、なんでそこに指を突っ込んで引っ張るんだ……?
トコトコと連れ立って図書室へ向かいながら、俺は内心で疲労のため息を吐いた。
まぁ手を繋いだり首根っこを引っ掴まれるより、ずっといいか。
慣れよう。これが巌城だ。
結局図書室へたどり着くまで巌城は俺のポケットを離してくれなかったが、慣れることにした俺だった。
図書室に着いたあとのこと。
俺たちは一応ノートと教科書を広げ、テスト範囲の勉強を始めたのだが……うん。
巌城がふらふらと歩いてテーブルに着いた途端、周囲の生徒が立ち上がって席を移動してしまった事件が発生。
多少身なりが見れたものになっても、基本的に巌城は歩く地雷のままなのだ。
初めはとんでもない姿だったからなぁ。
毎日あの手この手で宥めすかして、俺は首吊りロープと化しているネクタイを締め直している。
シャツのボタンもとめ直しているし、ボサボサの髪もなでるふりをして整えていた。
そんな俺の涙ぐましい努力により最近の巌城はヤバい空気ではあるものの、見た目だけはアウトローな魅力のある美形になっている。
開いたノートに鉛筆(鉛筆派らしい)を当てて、目を伏せる憂い顔は、初夏の風に吹かれて男らしくも美しい。
「えーえっくすぷらすびーわい」
例え、中身が方程式をただの呪文と捉えて唱えるような無知な子犬だったとしても、だ。
「ax+by+c=0、だな」
「解読してくれよ、格子」
巌城はズズイ、と教科書とノートを差し出して訴える。
ちなみに席順は隣同士だったりした。
どうあがいても向かい側に座ってくれなかったので、押し負けてしまったわけだ。
曰く、距離が遠すぎるとか。
全然問題点がわからない。渋々隣同士で勉強を教えている。
「ええと、これは直線の方程式で、関数の変形だな。切片と傾きは中学で習っただろう? それと同じで式に数字を当て嵌めて計算しグラフを描く……って、な、なんだこのノートっ!?」
「ん? 俺のノートだぜ。格子は変なことを聞く」
教科書を見ながら説明してそれを巌城のノートに書こうとした直後、俺は目をひん剥くはめになった。
ちっとも動じていない巌城は置いておこう。距離が近すぎるのも置いておこう。
開いた巌城のノートには、独特の世界観の緻密な鉛筆画が描かれていたのだ。
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