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うん。立派だと思う。
だから半端な時期に足を故障してバスケを捨てた面倒な事情のある編入生な俺も、受け入れてくれたわけだし。
「いやだからって、学生一人に1LDKとか。ありなのか? 理事長先生」
目から光が消失した俺の疲労を、きっとこの話を聞いた庶民はみんなわかってくれると思う。間違いない。
まぁ現実逃避はここらでお開きだ。
格差社会はどこにでもある。ははは。
気持ち肩を丸めた俺は、震える指でインターホンを押す。テスト勉強が先決だからな。
インターホンを押すと、ピンポーン、と軽い音が鳴った。
俺はしばらくそわそわと待機。
五分経過。ネームプレートを確認する。蔵 巌城。合っている。
もう一度押す。
しかし反応がない。
俺が言うのもなんだが、こんな時間に出かけているのだろうか? 連絡先を交換しておくんだった。もし今日会えたら交換しようかな……。
こっそりと反省してから、最後にもう一度インターホンを押す。
それから念のためにコンコンとドアをノックしてみるが、やはり返事はない。
「おーい、巌城、いるか? 俺だ。ええと、格子だぞー」
ガチャッ。
「格子、おかえり」
「っへ!?」
しかし一応と控えめに声をかけてみた瞬間──開いたドアからヌッ! と登場した巌城が、機嫌のいい声とともに逞しい腕の中へ俺を閉じ込めてしまった。
それだけでも驚くが、もう一つ。
「いたのか!? じゃなくて、な、なんで全裸なんだぁぁぁ……っ!」
──扉を開けると、全裸だった。
そう。俺はオープンザドアから流れるような動きで抱き寄せた全裸の巌城に、現在絶賛熱烈ピュアスキンハグをかまされていた。
うぎゃあ! と悲鳴をあげて暴れる。
当然だ。素肌の腕に閉じ込められ生の胸板にムギュムギュ押しつけられて大人しくしているわけがない。
というか胸板が筋肉でガチガチだ!
アスリート級に物凄くいい体をしているせいで息がしにくし正直痛い! こんな展開なら女の子の柔らかい体がよかった!
「とりあえず服を着ろっ!」
「なんで? 格子、行くぜ」
「行かないぜっ!?」
──行かないと……行かないと言っているのにぃ……っ!
話を聞かないのがデフォルトな巌城は、俺をヒョイと赤ん坊のように抱いて、部屋の中へ戻ってしまった。
嘘だろ? 百八十の元・スポーツマンな男子高校生が本気で暴れているのにものともしないぞ? 軍隊出身か?
男が羨むムキムキボディ。
腰に巻いたバスタオルの下のモノすらご立派だが、オツムは変人マイペース。
「ジングルベル。冬は嫌いだけど、サンタクロースはまぁまぁイイぜ。赤はかわいい。格子は黒だけどかわいいな」
「そうか……俺はサンタクロースからのプレゼントではないし、今は冬じゃないんだぞ……巌城……」
「ちと寒い。冬だろ」
「服を着ていないからだ巌城……」
どだい逃げられるわけがないのさ。
俺は抱えられたまま、それはもう死にそうな顔でガックリと脱力した。
そうして少し歩いてから、備え付けの家具のみで構成されたスカスカの室内でトン、と下ろされた。
娯楽品のないリビングルーム。
招き入れた家主の巌城は、全裸にバスタオル姿でニマ、と笑う。
髪からボタボタ雫が垂れている。
風呂から上がったあとにインターホンが鳴って、髪をちゃんと拭かずにドアの前で様子を伺っていたらしい。
「格子、なにする? 俺は、炭酸ジュースとみかんを混ぜようと思う」
「とりあえず、バスタオルを持ってきてくれ……」
額に手を当てて青い顔をしながら、浴室らしいドアのほうを指さす俺であった。
水も滴るいい男とは、リアルではただの風邪っ引き予備軍である。
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