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◇ ◇ ◇
ガラッ、とドアを開けると、室内には夕日に照らされながら本棚に囲まれたデスクに座る三初先生がいた。
俺が来たとわかるとニンマリ笑って手を伸ばし、座ったままカーテンを引く。俺はなにも言わず後ろ手にドアを閉めて鍵をかける。
それらが終わるとへの字口の仏頂面を維持しながら、俺はなるべくゆっくりと足を進めて先生の前に立つのだ。
「……なんすか」
「口の利き方には気をつけて」
「うっ」
全力で顔に不満と書いて立ち尽くすと、先生が不意を打って俺の腰を抱き寄せた。
不意打ちに弱い俺は体勢を崩してしまい、先生の上に乗りかかるように座ってしまう。
すぐに文句を言おうとしたが学ランの下に入った手が抱いた腰をシャツの上からなでたので、ビクッ、と体が跳ねた。
「おいっ」
「自業自得でしょ。せっかくの特等席なのにボケっとしちゃってまあ、俺に叱られたくてわざとその間抜け面見せつけてるのかと思ったわ。御割クンはマゾいねー」
「自分の生徒勝手にマゾにすんっ、さ、っわんじゃね、っん、ぁ……っ」
ベルトを緩められながら首筋にキスをされ、甘い声が漏れた。背中を丸めてフルリと震える。皮膚を薄くなぞり気まぐれにちゅうと吸いつく唇が憎い。
俺はカァァァァ……っと耳まで熱くなり、鋭い眼光で先生を睨む。
「チッ、このセクハラ淫行教師が……男の教え子に手ぇ出してんじゃねぇよ。ゼッテェ逮捕されっからな」
「くく、教師ってだけであんたに触ったら逮捕されんの? じゃ、教師やーめた」
「ンッ……」
ベロリと肌を舐める舌。
逮捕されると脅してもまるで動じた様子がない先生は、俺の追求をあっさりとかわし、あまつさえ教師を辞めると言い出した。
いやそれは大人としてどうなんだよ。変態教師が。いっそ無職になるか死ね。
「触られたくねぇから、やめんな」
「え? せんせぇ〜って呼べなくなるからやめてほしくないって?」
「テメェなんざ変態野郎で十分だッ」
学ランのボタンを外しながらふざけたことを抜かされて、低く唸った。
せっかく人が心配してやってんのに。
一応本気だ。先生が俺を呼び出して、触って、抱き寄せて、味わって、嬲って、それは結構高くつくって、知らないほど高校生は子どもじゃない。
俺に構うつど社会的地位を脅かしながら職権乱用するたびに、リスクも抱えている。
それなのにそんな子どもの遊びからいち抜けたって帰るみてぇなテンションで、今この瞬間俺に触るためだけに先生やめるとか、言うなよアホ。
「っぁ……っ」
「ふ……期待してんじゃねーよ、マセガキ」
ぼんやりしていたところを突然くつろげられた前を下着越しになでられ、反射的に感じいった声が出た。
死ぬほど恥ずかしくて全身がカッと熱くなる。いちいち言うなよ、クソが。自覚のあることを指摘されると暴れそうだ。
くっと唇を噛み締めると、三初先生はシミになった膨らみをスリスリとなでながら、耳元にふぅと息を吐く。
「応えてあげようか? 期待に」
「っ……!」
先生の肩に置いた手に変に力が入り、ビクッと跳ねた。だからいちいち言うなって言ってんのにどんな神経してんだよ。
先生の顔なんか見ていられなくて、黙ったままフイと顔を背ける。
一発殴ってやろうかとも思うし、こんなやつ大嫌いだとも思う。
ただ、先生の膝から降りようとは思えなかった。
泣き出しそうな気分だ。それでも、逃げはしない。もちろん甘えもしない。爪を立ててやる気で強く先生の肩を握り、報復をしてやる。
「ガキのくせに折れねぇなー……」
「い゛!? てぇ……ッ」
愚直で強情な意地っ張りである俺のせめてもの抵抗を三初先生はほくそ笑んで、項に強く噛みついた。
痛みにグッと筋肉が強ばる。
逸らした顔を振り向かせ殺意を込めて睨みつけるが、先生はむしろ機嫌よく口角を上げ、俺の目をじっと見つめた。
ヤバイ、引き込まれる。
「あんたの目が俺のものになるなら、センセーなんていつでもやめてあげますよ」
──それなら今すぐ教師をやめて然るべきなんじゃねぇのかよ、バーカ。
胸中で呟き、現実では舌を打って、黙ったまま先生を抱きしめる。
一部のマゾに盲信される暴君教師の三初先生は──俺だけの恋人、なのだ。
了
本当は同僚設定で二作書いたのですが、なんとしてもしくったので、安易に走った木樫を殴ってください。リクエスト頂きありがとうございました!
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