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冷静な判断力を失った俺が男についていくと、さほど歩かずに屋敷のような大きい一軒家についた。
なんというか、一般的な一軒家が数個くっついているような雰囲気だ。
中に入るまでにあった驚くほど厳重なセキュリティーに圧倒されながら、一番奥の部屋に通される。
シンプルな家具で統一されたその部屋は、彼の言っていた通り温かい。事前に暖房がつけてある。
彼は俺をそこへ入れると、「好きにして」と一言言って微笑んだ。
好きにして、とは?
わけがわからない。
俺は選択を早まったのかもしれない、とその時初めて思った。
「え……っと。なんのために俺を、呼んだんだ……?」
「一生一緒にいたいなと思った。だからここにいて。全てのものから守るよ。世界が嫌いなんでしょ」
「は?」
そして俺は、監禁された。
男に連れてこられたあの日から、どれくらい日が経ったのだろう。
こもりっきりの俺は、監禁されてからの時間感覚がわからなかった。
『しばらくだけ、外に出ないでね。俺がいいって言ったら、いくらでも好きなところに連れて行ってあげるからね』
男は外に出してほしいと訴える俺にこう言って、俺の頭を優しくなでた。
だけど、冗談じゃない。
俺にとってこの男は初対面の不審者で、この家は俺の家ではないのだ。
迂闊だった。
幼さゆえの無防備。そのツケがこれだ。
外に出られないとわかった途端、ただ不気味なだけだった男が、俺に明確な恐怖をもたらす存在に変わる。
不明瞭な生き物。
常識の通じない狂った存在。
人を監禁するなんて正気じゃないじゃないか。だってそうだろう? この世の中じゃそうのはずだ。
あれほど帰りたくなかった家に帰りたくてしょうがない。底の見えないあの男が、突然恐ろしい死神に見えた。
顔も見えず、本心が読めない秘密主義の男。
男は豪邸に住めるだけの収入がある仕事をしているらしいが、その過程の姿を俺には見せなかった。仕事中は別室にこもっている。むしろほとんどそこにいる。
俺は男が部屋にこもる時以外、初日に与えられた部屋から出なかった。
のこのことついてきた自分を呪い、慎重になったのだ。情報を得て、隙を狙う。
この家には時計もカレンダーもなかった。
時間の経過がさっぱりだ。
だが幸いにも、冷蔵庫の中はいつもたくさんの食物であふれている。キッチンは食べ物でいっぱいだったので飢えはしなかった。
勝手に食べるのは気が引けたけれど、そうも言っていられなくなり、控えめな量を拝借。
服も部屋にあったウォークインクローゼットにあったものを適当に着た。
この家には大抵のものがそろっている。
それがせめてもの救いだ。
ただ電話はない。
それに、窓も極端に少なかった。全てが遮光カーテン。
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