虹の柱と呼ぶには。①【完】

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 冷静な判断力を失った俺が男についていくと、さほど歩かずに屋敷のような大きい一軒家についた。  なんというか、一般的な一軒家が数個くっついているような雰囲気だ。  中に入るまでにあった驚くほど厳重なセキュリティーに圧倒されながら、一番奥の部屋に通される。  シンプルな家具で統一されたその部屋は、彼の言っていた通り温かい。事前に暖房がつけてある。  彼は俺をそこへ入れると、「好きにして」と一言言って微笑んだ。  好きにして、とは?  わけがわからない。  俺は選択を早まったのかもしれない、とその時初めて思った。 「え……っと。なんのために俺を、呼んだんだ……?」 「一生一緒にいたいなと思った。だからここにいて。全てのものから守るよ。世界が嫌いなんでしょ」 「は?」  そして俺は、監禁された。  男に連れてこられたあの日から、どれくらい日が経ったのだろう。  こもりっきりの俺は、監禁されてからの時間感覚がわからなかった。 『しばらくだけ、外に出ないでね。俺がいいって言ったら、いくらでも好きなところに連れて行ってあげるからね』  男は外に出してほしいと訴える俺にこう言って、俺の頭を優しくなでた。  だけど、冗談じゃない。  俺にとってこの男は初対面の不審者で、この家は俺の家ではないのだ。  迂闊だった。  幼さゆえの無防備。そのツケがこれだ。  外に出られないとわかった途端、ただ不気味なだけだった男が、俺に明確な恐怖をもたらす存在に変わる。  不明瞭な生き物。  常識の通じない狂った存在。  人を監禁するなんて正気じゃないじゃないか。だってそうだろう? この世の中じゃそうのはずだ。  あれほど帰りたくなかった家に帰りたくてしょうがない。底の見えないあの男が、突然恐ろしい死神に見えた。  顔も見えず、本心が読めない秘密主義の男。  男は豪邸に住めるだけの収入がある仕事をしているらしいが、その過程の姿を俺には見せなかった。仕事中は別室にこもっている。むしろほとんどそこにいる。  俺は男が部屋にこもる時以外、初日に与えられた部屋から出なかった。  のこのことついてきた自分を呪い、慎重になったのだ。情報を得て、隙を狙う。  この家には時計もカレンダーもなかった。  時間の経過がさっぱりだ。  だが幸いにも、冷蔵庫の中はいつもたくさんの食物であふれている。キッチンは食べ物でいっぱいだったので飢えはしなかった。  勝手に食べるのは気が引けたけれど、そうも言っていられなくなり、控えめな量を拝借。  服も部屋にあったウォークインクローゼットにあったものを適当に着た。  この家には大抵のものがそろっている。  それがせめてもの救いだ。  ただ電話はない。  それに、窓も極端に少なかった。全てが遮光カーテン。
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