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穏やかな口調を心掛け決して取り乱すことはなく感謝は言葉にしている。
仕事ではない普段の俺は、感情がわかりにくいらしいからな。
だからこそ大袈裟に作った微笑みは絶やしていないし、仕事のことは一切隠しきっている。怖がらせることねぇだろ?
集まりに顔を出さないことで仲間や部下もどきからは泣きつきの電話が入ることもあるが、それは無視。どうでもいい。
マフィアに一枚噛んだりマネロンのルートを抑えていることだったり、俺が危ない仕事をしていることはバレていないはずだ。
昔監禁した時は俺も若く、壊したい衝動が抑えられる気がしなかった。
縛りつけて犯し傷つけないよう、接触を最小限にしていたが、今は四十近いいわゆるオッサンだ。
当然だが自制も覚えた。
体や性欲の衰えを感じていなくとも、分別はつくようになっている。
たとえ目の前に風呂上がりの泣野がいようとも、無表情で「風邪ひくよ」と声をかけタオルを差し出すぐらいの強固な理性が身に着いているだろう。
だと言うのに、十二も年下の男一人……俺はまともに笑わせられない。
歳だけ食っても、この体たらくだ。
俺には少しも、そんな顔をする理由がわからない。
わかったとしてもそう単純に解消してやれない。
俺への好意は感じないが、敵意もない。
生き死にや利をかけたものでなければ、俺には人の心の機微がわからない。
彼の望んだなに不自由ない甘い世界を作ったのに、どうして寂しそうなんだ。
泣野。
俺はお前をただかわいがって愛でて、一生俺のそばで呼吸させたいだけなんだぜ。
「……スマホ、鳴ってるぞ」
「ん? ああ……こんなもの、気にしなくていいんだよ。取るに足らないことだから」
「でもずっと鳴ってるしな……」
「関係ないね。君との食事より大事な用なんてないのさ」
それともうるさかったかい?
食事の手を休めずに尋ねると、彼はひきつった顔でブンブンと首を横に振り、俺とスマホを交互に見た。
いけねぇなぁ、泣野。
俺といるのにやかましい無機物なんざ見てるんじゃねぇよ。お前が興味を持つのは、俺だけでイイ。そうだろ?
どす黒い感情がジワリと湧いたが、ぐっと飲み込んで平然とスマホを手に取る。
そして電源を切る。
画面は見ていない。興味ない。
彼が俺をなんともいえない表情で見つめていたが、そっと息を吐いて食事を再開していた。それでいい。なにも心配することはない。
またいつものように、微笑みを心掛けながら彼の手料理に舌鼓を打つ。──が。
「あ……」
ピンポーンと、玄関から来客を告げる軽快な音が聞こえ、彼が声を漏らした。
……俺の家を訪ねてくる客は、限られている。
まずは宅配便。
だがそいつらはもうずっと前からの馴染みの業者で、上には多めの小遣いを握らせているから呼び鈴を鳴らす野暮はしない。
この家は全て置き配。
インターホンで仕事の邪魔をされるのが不快らしい。
そんな理由を信じて疑問も抱かない。
この国の人間は他人絡みなら言われたことを信じる。下のやつらも従順なもんだ。
この住所だって身元の割れたただ一人の担当者にのみ知らせている。
もちろん嘘の理由を与えて、だ。
ヤツらは頼まれたってインターホンなんか押したくないだろう。
なら仕事関係の客かって?
そういう話は万が一泣野にバレるかもしれないので家ではやらない。
というより俺の自宅なんて客に教えない。だいたい外だ。そもそも泣野がくるまでここにはほとんど帰ってなかった。
残るは、仕事仲間。
──ピンポーン。
せかすようにもう一度呼び鈴が鳴る。
心当たりが何人かいるが、どれなのかねぇ。どいつもこいつもろくな生き物じゃあねえが。
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