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(side山田)
僕──山田 隆之が通う学園は、特殊な学園です。
金、地位、学力、家柄、力、容姿、そして特殊な能力でも、とにかく普通よりも秀でた人たちがわんさかと通う外界とは隔離された世界なのです。
この世界は少し特殊で、少し恐ろしい。
中高大と一貫のこの全寮制の男子校では、実力が全て。頭一つ抜けたものを持っていれば平和で華美に生きていけます。
そうでない普通の生徒は目立たず平穏に暮らしていればよくて、普通よりも劣っている者たちは特別棟という別校舎に隔離されていました。
そんな日々の中で、高等部の一学年に通う僕はしがない草食系もやしっ子な平凡男子だったんです。
なんの不満もなかったのですよ?
友達もいましたし、週末はお菓子パーティ等を嗜んでハッピーに生きていました。割となんにも考えていませんでした。
なのにある日突然現れたイカレた爬虫類のせいで毒蛇愛好家の肉食獣の前に無理矢理放り出されて、猛禽類に睨まれて、つつかれて、詰られて。
アイツ──あの転校生に巻き込まれてから、しがないたぬきの僕は散々です。
そしてついに、僕は八つ当たりでボロボロの身体を、ハイエナヤンキーたちにぐちゃぐちゃにされてしまいました。
もう発狂ものです。
我慢の限界です。
そうして僕は屋上に来ました。
僕は飛びます。
ぐずぐずと涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま、フェンスを乗り越えます。あとでどうなったって知ったこっちゃありません。バーカバーカバーカ!
「うっ、ううっ、一時の感情だとしても、僕はやりますとも……っ」
自分を叱咤激励するために、思っていることをペロペロと口に出しました。
屋上は高くて恐いです。
ガタガタと震える身体はこのさい無視しましょう。下なんか見ませんよ。
しかしいざっ! と目を瞑った時、不意に背後でガチャンと屋上のドアの開く音がしました。
こんなところを見られると困ります。僕は慌てて振り向いたのですが──……そこには絵画に写し取られそうなくらい、とびきりの美形男子がいました。
一瞬、僕は高いところが怖すぎて幻覚を見ているのかなと思ったほどです。
キラキラと輝く銀髪は太陽の光に反射して後光を発してる様に見えました。
混雑する食堂にでも顔を出せば、学園の面食いな小動物たちが騒ぎ出すでしょう。
彫りが深く男らしくも芸術的に整った顔立ちと、一つ色を落とした金色の瞳が白いまつ毛に縁取られて宝石の如く際立ちます。
北欧系の異国人のように見えますが……真偽はわかりません。
僕より十センチは高い長身も相俟って、神聖な威圧感と言うか、彼はすれ違えばつい二度見してしまうようなオーラを纏っていました。
しばし息を呑みます。
するとゴクンと喉を鳴らして立ち尽くす僕を見つけて、彼は真顔のまま首を傾げたかと思うと──ひと言。
「たぬきちゃん、なんで泣いてるんだ? ……たまねぎを切ったんだな?」
「…………」
彼の声は深く胸に響く落ち着いたバリトンボイスでしたが、その語気は、幼稚園児のように幼いものでした。
なるほど。
さてはこの人、凄く変人ですね?
まったくもうこの学園はこんな人ばっかりなのです! オーマイガッ!
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