狐と狸とエンジェルと。①【完】

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 (side神)  俺は屋上に向かって歩いている。  俺のトモダチに会いに行くからだ。  俺にはその人しかトモダチがいない。  俺は学園で一番馬鹿だからだ。 「狐さん狐さん。なんだ、神。俺は今から狐さんに会いに行くんだぞ。そうか、待っている」  表情筋がほとんど動かないので顔には出ていないかもしれないが、一人二役で再現する俺は今、とてもウキウキしている。  俺とトモダチ──狐さんは、こんな感じの関係だ。  俺と狐さんの仲良し度は半端じゃない。  ハグはおろか、ちゅーもえっちも経験済みだ。これは仲良しの最上級だと聞いた。  俺と狐さんは同じクラスで更に同室者だから、仲良し度も上がるというものである。  俺は甘えたなので、狐さんくらいなんでも好きにさせてくれるほうが嬉しい。だからこその一番のトモダチなのである。 「ちゅーしたい。狐さーん」  よく顔に似合っていないと言われるチュッパチャプスを舌で転がしながら、狐さんを思う。  狐さんはまだ寝ているだろうから、俺が起こしてあげないと。  責任重大のミッションだ。階段を登り切り、屋上のドアをガチャンと開ける。  するとそこには──俺の知らないたぬきちゃんがいた。  それもフェンスの向こう側で涙を流し、ポカンと俺を見つめていた。  俺はたぬきちゃんが泣いている理由を考えて、首を傾げる。 「たぬきちゃん、なんで泣いてるんだ? ……たまねぎを切ったんだな?」 「…………」  そっか、声も出ないみたいだな。  たまねぎはうかつに切っちゃあいけないぞ? 風に頼んで切ってもらうよ。  トコトコと歩きながらたまねぎなら仕方ないと納得しつつ、たぬきちゃんがなぜか向こう側にいるから、俺はフェンスをがちゃがちゃ登ってたぬきちゃんの隣に座った。 「たぬきちゃん、俺エンジェル」 「え、え、え?」 「たぬきちゃんは?」 「ぼっ? ぼ、僕はっ」 「たぬきちゃん、とりあえず座りな」 「あっ、は、はい」  のんびり隣を促すと、たぬきちゃんはどもりながらもちょこんと落ち着く。  俺はちびっちゃいたぬきちゃんの頭をよしよししながら、ハンカチで涙と鼻水を優しく拭いてあげた。泣いている時はこうしてほしいのが人間だろう。  たぬきちゃんになにがあったかは知らないが、一人で泣くのはよくない。うん。 「さてと。困ったんだな? 泣くくらいなら、俺に言ってみるか? たまねぎは切れないけれどな」 「う……それは、ぇ……えと……エンジェル、先輩? です、ね」 「うん。本名は空知(そらち) (じん)。たぬきちゃん、名前は?」 「全然本名あるですか。僕は山田(やまだ) 隆之(たかゆき)です」  まだ少しぐずぐずと鼻を鳴らしながらも自己紹介をしたたぬきちゃん。  たぬきちゃんはエンジェル先輩が長いと判断したのか、空知先輩、と控えめに呼んだ。なんでもいいんだ。俺は返事をする。  かわいいと定評のある満面の笑み(狐さんだけだがな)を浮かべて、なんだ? と顔を覗き込みながら言えば、たぬきちゃんは頬を真っ赤に染めて顔を逸らした。  ……? エンジェルスマイル、気持ち悪いかったのか? やだー……。
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