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突然だが、俺こと大河 勝流──シャルの恋人を紹介しようと思う。
彼の名前はガードヴァイン・シルヴァリウス。愛称はガドだ。
上位魔族、ヒュドルドであるガドは、いつもデートに行こうと言っては魔王城にある俺の部屋の窓からやってきて、絶叫コースター並みの飛行テクニックを披露してくれる。
おかげで俺はいつもグロッキーになってしまうのだが、デートを拒否しようとは思わない。
俺の顔色が青くなるとガドは竜人化し、俺を背負ってあやしてくれるのだ。
顔はいつもどおりでも銀色のしっぽがしょげているので、おおいに反省しているわけである。かわいいだろう?
甘いものが好きな竜種。
例に漏れずガドも甘いものが好きなので、魔王城のお菓子屋さんである俺の厨房に入り浸っていることが多い。
つまみ食いも過多だ。
好奇心も旺盛である。
しかし叱ると長身の体を全部使ってごめんよごめんよと抱きついてくるものだから、俺もついつい許してしまう。
そんな甘えんぼうのガドは、俺になでられるのがいっとう好きだった。
ことあるごとにゴロゴロとじゃれつき、なでてくれようと甘えてくる。
マイペースで甘えたなガドはかわいらしいので、俺はガドと話しながら、時間の許す限り彼をなでるのだ。
他にもガドの魅力はたくさんあるが、ここらで本題に入ろう。
俺の愛する恋人であるガドが甘えたでマイペースで破天荒な竜だということは、よくわかったと思う。
ではそのガドと俺が現在なにをしているのかと言うと──二人きりで小さな露天風呂に浸かり、日々の疲れを癒していた。
「ン〜フ~」
「ん~ふ~」
カポーンと平和な夜の露天風呂。
機嫌のいいガドの謎の声に合わせて、俺も謎の声をあげてみる。
魔界の隠れ秘湯。
空の覇者である空軍長官にかかればひとっ飛びで、日帰り旅行が楽しめた。
俺を背後から抱きしめるガドは、始終ニマニマと楽しそうだ。
俺としてもゆっくり温泉に浸れてほっこりする。体勢はアレだがな。
普段からこの体勢で湯船に浸かるので、慣れた。こうじゃないと機嫌を悪くするんだ。ガドはバックハグが大好きらしい。
ふぅ、と息を吐いて身を預ける。
平均より断然大きめな俺でも、百九十も背丈のあるガドの腕の中にはすっぽりだ。
「ガド、連れてきてくれてありがとうな」
「おうさ。お前のためならどこにでもひとっ飛びしてやるぜィ? 俺はイカした竜だからなァ~」
「ふふふ、そうだな。イカした俺の竜だ」
「ククククッ、シャァルもイカした俺のシャルだぜ」
パシャン、とお湯が跳ねる。
機嫌のいいガドが尾を揺らしたらしい。褒められて嬉しいんだろうな。
そうなるともっと褒めてあげたくなるので、俺は手を伸ばし、後ろ手にガドの頭をポンポンとなでた。
「ンー……もっと」
「よしよし」
「ンン~、シャル、空より好きだァ~」
「ふふ、俺もガドが大好きだ」
頬を擦り寄せ合って笑うと、ガドは尾を俺の足に巻きつけてガドなりにめいっぱいの愛情表現をする。
巻きつくのがガドの愛情表現なのだ。
そのうちひょいと抱き上げられて、向かい合うように体をひっくり返された。
顔が見える体勢になると、機嫌のいいガドの笑みがよく見える。かわいい。
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