狐と狸とエンジェルと。①【完】

4/6
前へ
/368ページ
次へ
 不快に思われて軽く凹みつつ、真っ赤に染まったたぬきちゃんの頭を二、三度なでて離す。滅多に笑わないんだ。許しておくれ。  俺が手を離すと、たぬきちゃんはしばらくうーんと考えてから目線を俺に向けて、ゆっくり話し始めてくれた。 「困ったというか、本当はその、衝動的なことだったんです……僕、今いじめられてて。ほら……転校生が来たじゃないですか」 「? 転校生なんて、いたか?」 「そ、そこから……!? えっと、では前提のお話もですね……!」  俺が首を傾げれば、たぬきちゃんはちょっとだけ呆れながら頭を抱えてから、渋々とたぬきちゃんの状況と転校生について説明をしてくれた。   ◇ ◇ ◇ 「と言うことでヤケになってここにいたところ、空知先輩がいらしたのです」 「ほぉー……」 「……先輩、もしや幼稚園児属性だけではなく、天然さん属性ありですか?」 「? 俺は見てのとおり高校生で、人工物ではないが……」  属性やら天然さんやらよくわからないが否定すると、たぬきちゃんは「天然さんですね、わかります」と言っただけで、答えは教えてはくれなかった。勉強は苦手だ。  話をもとに戻そう。  たぬきちゃんをいじめる人たちは、転校生くんのオトモダチが原因らしい。  転校生くんというのは、毒蛇──とても狡猾でサディスティックな本性を持つ、一見すると平凡な人、だそうだ。  だけど同室者のたぬきちゃん以外は、たぶんその本性を知らない。  性格なのかとてもモテるらしい転校生くんは、この学園で大人気の生徒会たちというのを味方につけている。  その転校生くんがたぬきちゃんを気まぐれに連れ回すので、たぬきちゃんは生徒会たちを好きな人から嫌がらせを受けた。  結果──たぬきちゃんはみんなにいじめられて、ハイエナちゃんたちに無理矢理食べられちゃったわけだ。  ちなみに転校生くんは強いので被害があんまりないのだとか。  たぬきちゃんばっかりわりを食う。 「裸に剥かれてあれやらこれやら……うん。それはひじょーに悪いことだな。よくないことだ。困ったことだ」 「うぅ……っだからもう、僕は最後の手段フライアウェイに……!」 「まぁ待て。嫌になったのだろうけれど、エンジェルの話聞いてからでも、飛ぶのは遅くないぞ」 「え……?」  たぬきちゃんはよくわからない、とでもいいたげな顔をして俺のほうへ顔を向ける。  俺はそうと頷いてから説明をわかりやすくするため、両手を指の中指と薬指を親指にくっつける形にした。  ワンワンと見えるはず。  そしてそれを、人形劇のように動かす。 「俺は中等部の時、この学園では食べられる側の見た目だったんだ。細っこくて小さいんだ。今みたいにムキムキでもなくてな」 「はい……」 「で、実際食べられた」 「っ……!?」  ぎょっと目を見開くたぬきちゃんに、人形代わりにした手を自分に向けてはむはむと噛みながらへら〜っと笑いかけた。  笑う話だ。  俺は全然気にしてないからな。  そう言うとたぬきちゃんは心配そうにしたが、なにも言わずに俺の話を聞く。  そうそう。俺の話がメインじゃない。たぬきちゃんの話なんだぞ。 「あちこち食べられたエンジェルは、ある日狐さんに助けてもらった」 「……狐さん?」 「あぁ。あとで会わせてあげよう」 「あ、はい……」 「狐さんは、あんまり評判もよくなくてトモダチもいないエンジェルと、トモダチになってくれたんだ」 「友達……」 「そうだ。狐さんは俺を食べたハイエナちゃんたちを燃やしてくれた。そんで、エンジェルは幸せになった」 「…………」
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1078人が本棚に入れています
本棚に追加