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不快に思われて軽く凹みつつ、真っ赤に染まったたぬきちゃんの頭を二、三度なでて離す。滅多に笑わないんだ。許しておくれ。
俺が手を離すと、たぬきちゃんはしばらくうーんと考えてから目線を俺に向けて、ゆっくり話し始めてくれた。
「困ったというか、本当はその、衝動的なことだったんです……僕、今いじめられてて。ほら……転校生が来たじゃないですか」
「? 転校生なんて、いたか?」
「そ、そこから……!? えっと、では前提のお話もですね……!」
俺が首を傾げれば、たぬきちゃんはちょっとだけ呆れながら頭を抱えてから、渋々とたぬきちゃんの状況と転校生について説明をしてくれた。
◇ ◇ ◇
「と言うことでヤケになってここにいたところ、空知先輩がいらしたのです」
「ほぉー……」
「……先輩、もしや幼稚園児属性だけではなく、天然さん属性ありですか?」
「? 俺は見てのとおり高校生で、人工物ではないが……」
属性やら天然さんやらよくわからないが否定すると、たぬきちゃんは「天然さんですね、わかります」と言っただけで、答えは教えてはくれなかった。勉強は苦手だ。
話をもとに戻そう。
たぬきちゃんをいじめる人たちは、転校生くんのオトモダチが原因らしい。
転校生くんというのは、毒蛇──とても狡猾でサディスティックな本性を持つ、一見すると平凡な人、だそうだ。
だけど同室者のたぬきちゃん以外は、たぶんその本性を知らない。
性格なのかとてもモテるらしい転校生くんは、この学園で大人気の生徒会たちというのを味方につけている。
その転校生くんがたぬきちゃんを気まぐれに連れ回すので、たぬきちゃんは生徒会たちを好きな人から嫌がらせを受けた。
結果──たぬきちゃんはみんなにいじめられて、ハイエナちゃんたちに無理矢理食べられちゃったわけだ。
ちなみに転校生くんは強いので被害があんまりないのだとか。
たぬきちゃんばっかりわりを食う。
「裸に剥かれてあれやらこれやら……うん。それはひじょーに悪いことだな。よくないことだ。困ったことだ」
「うぅ……っだからもう、僕は最後の手段フライアウェイに……!」
「まぁ待て。嫌になったのだろうけれど、エンジェルの話聞いてからでも、飛ぶのは遅くないぞ」
「え……?」
たぬきちゃんはよくわからない、とでもいいたげな顔をして俺のほうへ顔を向ける。
俺はそうと頷いてから説明をわかりやすくするため、両手を指の中指と薬指を親指にくっつける形にした。
ワンワンと見えるはず。
そしてそれを、人形劇のように動かす。
「俺は中等部の時、この学園では食べられる側の見た目だったんだ。細っこくて小さいんだ。今みたいにムキムキでもなくてな」
「はい……」
「で、実際食べられた」
「っ……!?」
ぎょっと目を見開くたぬきちゃんに、人形代わりにした手を自分に向けてはむはむと噛みながらへら〜っと笑いかけた。
笑う話だ。
俺は全然気にしてないからな。
そう言うとたぬきちゃんは心配そうにしたが、なにも言わずに俺の話を聞く。
そうそう。俺の話がメインじゃない。たぬきちゃんの話なんだぞ。
「あちこち食べられたエンジェルは、ある日狐さんに助けてもらった」
「……狐さん?」
「あぁ。あとで会わせてあげよう」
「あ、はい……」
「狐さんは、あんまり評判もよくなくてトモダチもいないエンジェルと、トモダチになってくれたんだ」
「友達……」
「そうだ。狐さんは俺を食べたハイエナちゃんたちを燃やしてくれた。そんで、エンジェルは幸せになった」
「…………」
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