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「たぬきちゃん、俺気に入ったから、俺もたぬきちゃん助ける。エンジェルは高等部に上がってから成長期が襲来して、食べる側に成長できたんだ。だから……たぬきちゃんも、成長するか?」
こてん、と首を傾げつつ、人形代わりの指をたぬきちゃんのおでこに当てて、はむはむと食べる。
たぬきちゃんは顔をくしゃくしゃにして俺をじっと見つめた。
わかるぞ。俺に助けてほしいって、思っているんだな。
大丈夫。
エンジェルはトモダチを助ける。
たぬきちゃんの泣きそうな、でも意志の籠もった顔にそう感じた俺は、ニパッ! と笑う。
そしてたぬきちゃんの手を思いっきり引いて──前に飛び降りた。
「っ!? うわあああ落ちるぅっ!?」
「大丈夫大丈夫」
突然空に飛び降りさせられて絶叫するたぬきちゃんを、俺はぎゅっと抱きしめてからふっと力を抜く。
そして、バサッ、と羽ばたくのだ。
「……う、そ……」
「久しぶりだから、気持ちいいな」
地面に堕ちずに舞い上がる俺の背中から突き出している、大きな白いもの。これは人間が欲しくて仕方なかったものだ。
翼、という。
この翼は閉じるとそうでもないが、広げた状態ならば片方だけで俺の背丈を超えるほどに大きい。
純白の翼を羽ばたかせれば、俺たちの身体は簡単に上昇して行くのだ。
手だと持ちにくかったのでたぬきちゃんをそっと横抱きにする。たぬきちゃんは驚きすぎているからか、特に気にしていない。
「こんなことって、有り得ないのです……でも、す、……凄い!」
「な、な、な? 飛ぶの、気持ちいいだろう?」
「はい……っ」
「こんなのたぬきちゃんをいじめるやつらにはできない。たぬきちゃんのがよっぽど上にいるんだ。自信を待って」
「神先輩……本当に神様みたいです!」
「んーんー。俺はただのエンジェル」
少し冷たい風が頬をなでた。
髪がさらりと靡く。
あまり長く空を飛んで呆けているたぬきちゃんが風邪をひくといけないから、元の屋上にふわりとなるべく優しく降り立った。
横抱きにしていたたぬきちゃんをそっとコンクリートの上に下ろしたあとは、そのままぎゅっと抱きしめる。
「じ、神先ぱ……っ」
「大丈夫大丈夫、恐くない。俺がいるから、もう恐くないぞ」
「っ!」
「何度落ちたって、俺が捕まえて飛ぶから、大丈夫」
そう言ってたぬきちゃんの身体を離し、頭をよしよしとなでてあげるのだ。今日はたくさんたぬきちゃんの頭をなでる日だな。
俺は翼を消して、どうだ? と首を傾げる。
たぬきちゃんは驚いていた顔をゆっくりと笑顔にして大きく頷いた。
これで俺たちは、トモダチ。
嬉しくなった俺が変化の乏しい表情筋を珍しく変化させて、笑い返そうとした時──ガンッ! と硬質な音が響いた。
「「!」」
不意を打った音に俺たちは驚き、それが聞こえた給水タンクのほうへパッと振り向く。
するとそこにはなんと、給水タンクから転げ落ちたのであろう狐さんが、うつ伏せに倒れていた。
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