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そうそう。
狐さんはいつもここで眠っているのだ。
「狐さん」
「え、あの人が狐さん!?」
「…………」
狐さんは動かない。黙ったまま。
きっと今の狐さんは頭を打ってとても痛いんだが、なぜ痛いのかわからないのと寝ぼけているので喋らず動かずなのである。
たぬきちゃんがとても驚いていたけれど、俺は慣れているので肯定を返してトコトコと狐さんに近寄っていく。
「狐さん狐さん」
「……なんだ」
「俺来たぞ」
「……そうか」
俺が梯子をよじ登って近寄り会いに来たことを報告すれば、狐さんはいつも通りローテンポに返事をして、むくりと立ち上がった。
相変わらず大きい。
百九十センチ近い長身の狐さんは、キラキラと光る金髪も相まってとても目立つ。
なのにたぬきちゃんしかり、学園の生徒たちはちっとも狐さんの気配に気がつかない。残念無念だ。
立ち上がった狐さんを強く引っ張って、ホゲーと待っていたたぬきちゃんのそばに無事戻る。
たぬきちゃんは緊張しているのか、狐さんを見て一瞬固まった。
くくく、無理もないだろう。
片方は髪で隠れているけれど狐さんの瞳は紫で、珍しい。それにすごーくかっこいいんだ。綺麗。
そのかっこいい狐さんは俺とたぬきちゃんを見比べて、ふんふんと頷く。
そしてたぬきちゃんの頭に手を置いて、わしゃしゃしゃしゃ~っとなでた。
「! わわわっ!」
「……これは、かわいいな……」
「あぁ。たぬきちゃんだ」
「……そうか。……俺は、山国 妖だ。好きに呼べ」
「は、はい! えと……僕は山田 隆之です」
「山田、隆之……たかゆき……たか。お前タカ」
「お、おっけーです」
目つきが鋭くて不良と呼ばれている狐さんが触ってくるので、たじたじだったたぬきちゃん。
けれど、その様が小動物染みていて狐さんには気に入られたようだ。
狐さんは小さい生き物が好きだからな。
それから素直な生き物も好きだ。なるべく弱いとより好きだ。たぬきちゃんはぴったり狐さんの好み。俺も好き。
ただ俺と狐さんは縦に長いのにたぬきちゃんだけが頭一つ分小さいので、二人で囲むと変な感じになる。
「おっと、狐さん」
「なんだ」
「血が出てるぞ」
「ん」
さっき落ちた時に強打したのだろう。
狐さんの額から、少し血が出ていた。
俺はよっと背伸びをしてその額に口付ける。エンジェルの唾液はエンジェルパワーがあるので、軽い怪我なら治してしまう。
すっかり傷が消えた狐さんの額にもう一度無駄に唇を落として、俺は離れた。
そのやり取りをたぬきちゃんがぽかんとしつつ眺めている。ん? ちゅー、気になるのか? たぬきちゃん。
「じゃあ、たぬきちゃんもちゅーか?」
「え!?」
「あぁ……そうか、タカ」
「え!?」
「たぬきちゃん」
「えぇ!?」
──チュ、と柔らかいリップ音。
俺が右頬、狐さんが左頬にそれぞれ軽くキスをすると、たぬきちゃんは声にならない悲鳴を上げて真っ赤になった。
なるほどなるほど。
俺の新しいトモダチは、よく真っ赤になる愛らしいたぬきちゃんらしい。
了
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