1078人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのな、たぬきちゃんを知っているだろう?」
「たぬきちゃん? おれに動物の友達はいないよー」
「ちっこくて、びくびくしてて、怖がりで、なんだかてんこーせ? というものにいじめられていた」
「あぁ……ちびちゃんか。あの子嫌いなんだよねー。うざいし鬱陶しいし助けられ待ちだし。おれはつまんないものがキラーイ」
一生懸命たぬきちゃんを思い出して伝えると、ハムたろーは腕を頭の後ろで組んで気だるげな声を上げる。
遊ばせていた飴ちゃんを口の中でガリ、ゴリ、と噛み砕いた。
こんなにゆるりとしているのに肉食系なのか。ハムたろーにはたぬきちゃんが嫌いだなんて悲しいことを言われてしまったが、それじゃあいけない。
「ダメだ。お願いってのはな? たぬきちゃんをいじめないでほしいんだ」
「なに? キミあの子の味方なの?」
ダメだと言われてむっとするハムたろーへ、俺は真剣にコクリと頷く。
たぬきちゃんは俺のトモダチだ。
大事な人だ。大事な人は守るのだ。
「俺の大切な人なんだ」
「……ふぅん? らぶらーぶ」
素直にそう告げると、ハムたろーは面白くなさそうな表情を、面白そうな表情に変化させた。楽しいのはいいことだ。
「じゃあさ」
「ん? ……?」
グッと肩を掴まれ、体を向けられる。
首を傾げるが、ハムたろーは笑うだけ。
「もしキミをここで強姦したりしちゃったら……ちびちゃん、泣いちゃうかな?」
──自分のために話をつけに行った大事な人が、なんて。
そう言ったハムたろーは掴んだ肩を強く押し、俺をベンチに押し倒した。
んん? なにがだ? 俺は目をぱちくりとさせ、青々とした空とその陰になったハムたろーの笑顔を見つめ返す。
その笑顔がニヤリとした意地悪な笑顔でも、チャーミングだと思う。
特に問題はないけれど、わからないことが一つあった。
「ハムたろー、ハムたろー」
「なぁに? こわぁい? キミもおれのこと嫌いになっちゃうかな?」
「いや……強姦って、なんだ?」
「…………」
尋ねた途端に訪れたのは、沈黙。
……や、ほんとにわからないんだ。
日常で使わない言葉なんて俺は知らない。お勉強は苦手。
気まずくてモジモジする俺を、凄く変な顔して見下ろすハムたろー。呆れちゃったのかもしれない。
ややあって、かわいらしいたれ目を冷たくしたような目が、俺を見る。
「ねぇキミ、レイプって知ってる?」
「すまん。横文字は苦手なんだ」
「いや横文字って言うか……ああもう」
思い切り萎えてしまったハムたろーは押し倒していた俺の体から退けて、元通りにベンチに座った。
なんだか疲れている。病気だろうか。
病気なら多少治すことができるのだが、とハムたろーを見つめると、ハムたろーは俺を半目で睨みながら強姦について教えてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!