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「トモダチ記念にお願い聞いてあげる」と言ってくれたので、たぬきちゃんをいじめない約束をしてからハムたろーとばいばいした。
ゆく当てがない俺は、またふらふらと歩き出す。
そうして道行く野良に生徒会のみんなを知らないか? と聞きながらあちこちぶらぶらしていると。
「ん?」
とおりすがりのそよ風が、ブワブワと騒がしく俺を呼んだ。
ふわりと頬をなでる風によると、どうやら人気のない場所で人が倒れているらしい。それは大変だ。一大事。
そよ風に案内されるままに道を歩いていくと、温室にたどり着いた。
人が倒れているのはここか。
中に入る。温室の中は太陽光がたっぷり降り注いでいてあたたかい。青々としたたくさんの植物があって、とても綺麗だ。
エデンに少しだけ似ていて、俺はほっこりしつつも風の言う人を探す。
すると少し探しただけで、その人はすぐに見つかった。
ベンチにうつぶせでだらけていたのだ。
真っ黒くて緩く跳ねたふかふかの髪と、大きな身体。狐さんくらい大きい人間は珍しい。制服を着ているから生徒だろう。
死んではいないようだけど……どうやら彼は、弱っているらしい。
「おい、おーい、キミ、キミ。起きないと。大丈夫か?」
とんとん、と肩を叩いて体を揺らさないように気をつけて呼びかけると、大きい子はうぅ、と唸って顔を上げた。
「誰……」
「空知 神だ。エンジェルと呼んでくれ」
「わかない……だれで、も……い……おなか、へった……」
へにょ、と眉を下げて泣きそうな顔でしょげる大きな子。
瞳を潤ませて悲し気な様子がなんだか甘えたな黒ラブに見えてきた。
もしや、この子が書記の黒ラブ……ほほう、長毛種だったのか
俺は明らかになった新事実にワクワクと胸を高鳴らせながらも、食料を探してガサゴソとポケットを漁る。
「ん、あった」
ポケットから引き抜いた手で掴んだものは、お昼ご飯にと狐さんに持たせてもらった四つのおにぎりだった。
銀紙に包まれたおにぎりはきっと海苔がしっとりとしていて、食べごろだと思う。美味しい確信しかない。
ころころとおにぎりをベンチの前にあるテーブルに転がすと、匂いを嗅ぎつけた黒ラブくんがもそ、と起き上がった。
「おにぎり……おにぎりくださ、……おねが、します」
「うん。鮭以外譲ろう。めしあがれー」
「あり、いただき」
お礼もそこそこ、空腹の限界だったらしい黒ラブくんは狐さんお手製おにぎりに大きな口でかぶりついた。
鮭は大好物だからダメ。
他のは昆布、梅、おかかだ。
なかなかサイズだった三つのおにぎりは、みるみるうちに黒ラブくんのお腹に収まっていく。
俺が鮭おにぎりをちまちまと食べ終わる頃には、全てのおにぎりが見事ただの銀紙と化していた。
恐るべし空腹時の黒ラブくん。
すっかり満腹になった黒ラブくんは、心なしか表情も晴れやかだ。よかったな。俺もハッピー。
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