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「クックック。いちゃつくぜィ、シャル? 俺をめいっぱい甘やかして、たっぷりのキスをする。温泉ってのはそういうものだろォ?」
「ん、そうなのか」
小首を傾げると「そうなんだァ」とガドはニマニマ笑った。
ふむふむ。温泉に連れてこられなくてもいつでも甘やかすのだが、温泉はもっと盛大にいちゃついて甘やかす場なのか。
ガドルールは不思議だな。
けれど異存はない。
俺はガドの頬を湯で濡れた両手でそっと挟み、弧を描く唇に口づけた。
「ん」
「ふ、……っ? ん……んん、ん」
しかしちゅ、と触れ合わせるだけのキスをしたはずが──それでは終わらないのが不思議なガドルール。
ガシッと頭を捕まえられたかと思うと、ぬめりのある長い舌が歯列を割り開き、口内へ押し入られてしまった。
「む……ふ、ぅ……っ」
俺が驚いたせいでバシャッ、と水面が波打つが、ガドはちっとも気にしない。
尾がうねり俺の腰に巻きついたかと思うと、呼吸もままならないほど激しいキスの嵐が襲った。
「ん〜」
「はっ……ん、んんっ……」
「んん〜」
「がろ、っう、んむぅ……っ」
「んっんん~」
──こら、んっんん~じゃなくて、息ができないぞ……っ!
俺は必死にガドの頬をむにむにとつまんで離れるように訴えるが、なんのその。いちゃいちゃモードの空軍長官様は無敵である。
ご機嫌麗しさの赴くまま、俺を味わって愛撫する。舌をしゃぶられ顎の凹凸や喉奥、頬肉や舌の下にある襞もねちっこくくすぐられた。
舐めて、吸って。
どこまでも甘えるキス。
ガドのキスは粘着質で、全力の構ってくれが込められている。それはもう長い。
具体的には酸欠を患った俺の頭がクラクラと揺らめき、ばたんきゅーと脱力してしまうほど、なのだ。
「ふ……ん……、ぅ……」
「んっんっん〜……ん? シャルゥ?」
「っ、うへぁ……」
「シャ〜ル~?」
ズルッ、と唾液や呼吸、言葉の全てを奪っていた舌が口内から引き抜かれ、慌てて深く息を吸った。
小首を傾げるガドを認識してはいるものの、視界が揺らぐ俺はしゃんとしない。
紅潮した顔をぐらつかせ、ついにはぐで、とガドに抱きつくように倒れ込んだ。
「うぅーん……」
「!? シャルが死んじまったァ!」
「し、死んでない……はっ……シャルさんは、頑丈……むきゅ~」
「アァッ、死んだァ!」
温泉による逆上せとキスの酸欠により目を回して倒れてしまった俺を見て、ガドは死んだと騒ぐ。
その上死んだと騒ぎながら尻尾と体の全部を使ってギュウ、と俺を絞め殺、じゃない。抱きしめた。
「ぐぇぇ」
「シャルゥ? シャァルゥ? キス嫌? 俺のキスで死んだのかァ? 毒出してねぇよぅ。もう嫌? 俺のキス嫌? ダメ? シャルゥ、シャァル~」
「がど、おれのみがでる、ふぐぅ……っ」
「嫌だァ~……構ってくんねぇと、泣いちゃうぜェ~……シャァルゥ~……」
「ぐはっ」
──その後。
あわやうっかり湯けむりシャルさん絞殺事件と相成りかけた、温泉タイム。
ガドの甘えん坊は、時折俺を殺しかける。
了
アゼルについて触れると作者心が発動しかわいそうになってしまうので、レッツ日帰り旅行。楽しかった。リクエスト頂きありがとうございました!
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