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「いい人、ありがとう……死ぬかと思った」
「すてき。お腹いっぱいなのは、幸せなことだ。どうして倒れていた?」
首を傾げて理由を尋ねると、黒ラブくんは自分を指さす。
「俺、おっきい」
「うん。狐さんよりおっきいな」
「いっぱい食べる。いっぱい時間かかる」
「? 俺より早食いだと思ったのに」
「いい人、食べる遅い。それに今、大変だった。動けないくらい」
独特なしゃべり方をする黒ラブくん。
話によると〝食べるのが遅い俺基準だからだということと自分が限界だったから今は凄く急いで食べてしまった〟ということらしい。ふむふむ。
「普段、話すのしない食べる。休み時間」
「そうだな。授業は大事」
「そう。でも……」
俺が頷きながら話を聞くので順調に語っていた黒ラブくんだが、ここで少し言い淀んだ。
しょんぼりと肩を落とす。
「あたたかい人、できた。その人、いっぱい好かれる。俺、文章にして話す、へたくそ。だから、がんばらないと話せない。……ご飯、食べれない。授業大変、仕事大変、ライバル怖い」
いっぱいしんどい、と呟いて、黒ラブくんは今にも泣きそうな表情で俯いた。
要するに、あたたかい人と話すには話すことに集中しなきゃライバルに負けちゃうから、たくさんご飯が食べれない。
そうすると授業も仕事も大変だ。
ライバルは脅威になるし、時間もないしでどうしようもなくてしんどい。
と言うことである。
黒ラブくんはたくさんご飯を食べないと動けない、燃費の悪いタイプなのだろう。なるほどな。よーくわかったぞ。
「だから癒しを求めここにきたものの、空腹で倒れてしまったのか」
「うん。……っあ」
俺はうんうんと納得していたのだが、ふと黒ラブくんが声を上げた。
どうした?
俺は顔を上げて首を傾げる。
「あう……いい人、ごめんなさい。いい人、俺の愚痴聞かされていや。俺、生徒会のみんな、会話手伝ってもらってる。話せるなる。生徒会のみんなライバル。でもみんな、俺の友達。怖いでも大丈夫。俺、大丈夫。だからいい人、もう行って。困るないから、ごめんね。もう行って」
なぜかとても慌て始めた黒ラブくんは、わたわたと焦って矢継ぎ早に弁明したかと思うと、出入り口を指差した。
う、いやだ。
どうして追い出すんだ? 俺も話は下手くそでよくわからない。うう、いやだ。
「そうは言っても、俺は黒ラブくんとトモダチになりにきたんだが」
「友達」
「うん……俺はトモダチが少ない。先程ようやく三人になったところなんだ。だからトモダチになってほしい。聞くに、黒ラブくんはなんだかこう……頑張りすぎなんじゃないかい?」
追い出されるといやな俺は、黒ラブくんとトモダチになるべく勧誘することにした。
勧誘がてら言いたいことも言っちゃう魂胆である。ありのままのトモダチ。
「俺は、気を使わないトモダチがいてもいいと思う。話すのが苦手なら、俺と練習すればいい。あたたかい人が気になってご飯が食べれないなら、いっそお昼だけ俺と食べればいいのさ。元気はつらつなら頑張れるから。仕事や授業が大変なら、俺がいっぱい黒ラブくんを抱き締めて癒す。もちろん俺はライバルではない。気楽なところも必要と思う」
トモダチがライバルではさぞ疲れるだろう。
だけど俺がトモダチになれば俺はハッピーで黒ラブくんもハッピーで、一石二鳥。
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