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期待に満ちた視線を送って無表情のまま待機する俺に、黒ラブくんはびっくりと目を丸くした。
少しの間キョロキョロと視線をさまよわせてから、ややあって、そぉっと俺を見つめる。
「俺、今知り合った。お……俺にそこまでする、おかしい。悲しい、でも信じられない。雰囲気に流されるはいけない、友達……俺は本当に面倒。よく考える」
そしてそう言う。
途端、俺の肩はきゅっと縮こまった。
一生懸命尻尾を巻きながら威嚇して疑う黒ラブくんが、俺にはたぬきちゃんとそう変わらなく見えたからだ。
このわんこは自分から真っ先に最悪を思い浮かべて、傷ついた時の痛みを最低限にしたいのだろう。
それはとても、悲しいことだ。
俺は泣き出しそうになると同時に、どうしようもなくやるせない怒りにかられる。
「ん、んん〜……」
「? っ!」
それが言葉にできないから、唸りながら黒ラブくんを抱き締めた。
黒ラブくんは当然驚いて身を固くする。
だけどこれは伝えなければいけない。こんなにもすてきな子が萎びて枯れるのは、もったいないということ。もったいない。
「よく聞いて? 俺は……きみが自分を守るために殻を固くすることが、とても悲しい。世界は怖いし、醜く脆いものだが、確かに美しい、優しい世界なのに」
「っ……ぁ」
スラスラするる。こういう時だけ、俺はじょうずに言葉をはけた。
抱き締めた黒ラブくんの幾分か高い位置にある耳へそっと唇を寄せて、ないしょ話のように言って聞かせる。
「きみが誰も疑いたくないために全てを疑うことが、とても腹立たしい。俺がきみを守りたいと、癒したいと、トモダチになりたいと、思った気持ちを疑われては、俺の心が死んでしまう」
「あ、どして、し、ぬ?」
「俺の言葉は心からだから」
「こころ……」
「そう。少しずつでいいんだ。怖いことも苦しいことも、楽しいことも嬉しいことも。一人じゃできない。ライバルとじゃできない。なら、俺と見てはくれないか? きみが今よりもっと良く変わりたいと願うなら、エンジェルはきみから決して離れたりしないものなんだぞ。それがエンジェルなんだ」
たまーに凄くよく話せる。
しかしスイッチが切れると元通りの言葉の使い方が下手くそな俺に戻ってしまった。
ただとても、悲しかったんだ。
そんな理由でオトモダチができないなんて、俺は悲しくて泣いてしまう。
言い終わった俺は、ぐずぐずと涙をこぼして鼻水をすすった。
へちゃむくれた顔でただポロポロしくしくと涙を流すだけの全く格好のつかない俺を見つめて、黒ラブくんはおろおろと慌てふためく。
「え、エンジェル? 泣くのだめ。泣くない。エンジェル」
「ぐすん。俺は全て受け入れるのに、もったいない、もったいないぞぅ……」
「エンジェル、エンジェル」
なんとか俺を慰めようと名を呼ぶ黒ラブくんだが、一度泣き出したエンジェルはなかなか止まらないものである。
当然泣き止むことはなく、それから数十分は歪みない号泣を披露するハメになる。
「おっ、俺、面倒。ネガティブ。怖がり。人見知り。今も必死。怖いと手でる。駄目犬言われた……トモダチ、それでもいい?」
「はぅぁ……っ」
しかしそれは、ついというふうに黒ラブくんが漏らした言葉でピタリと止んだ。
涙目の俺が勢い余って黒ラブくんに飛び付いたのは、ご愛嬌だと思う。
狐さん、俺のトモダチ、また増えたぞ。
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