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それから黒ラブくんにもトモダチの証を渡して、誘われるがままマインのIDなるものを交換しようとした。
だけど俺はスマートフォンを持っていないことを思い出したので、泣く泣く断念。
代わりと言ってはなんだが、近いうちに昼食を共にする約束を取り付けることに成功したぞ。よかったよかった。
次はお腹いっぱい食べような。
昼食だけでも、黒ラブくんが気を抜ければいいと思う。
こっちの校舎の温室で待ってるからと言って、俺たちはほのぼのと別れた。
──……本当は、もしかしたら迷惑だったかもしれないとは、思うんだけどな。
だけど、いいんだ。
黒ラブくんはあんなに怖がりなのに努力しているんだから、どうしても放ってはおけなかったんだ。ごめんよ。
本当にイイと思ってくれていたのか、真相はまたあとで聞けばいいだろう。
泣き虫な前向きエンジェルは怯むことなく、またとことこと歩き出した。
さて、生徒会というたぬきちゃんのオトモダチはどこにいるんだろう?
残るはあと、二人だけ。
「そこのあなた。今は授業中ですよ。早く教室に戻りなさい」
残りのトモダチを探してあてもなく歩いていると、ふとどこからか声が聞こえる。
自分のことかなと振り向くと──そこには書類を抱えたきれいな生き物がいた。
スッと小さく纏まったシャープな顔立ちにどこか高貴な雰囲気を持つ薄いクリーム色の髪にメガネをかけたその人は、なんと残りの一人のボルゾイちゃんだった。
俺はやっぱり運がいい。
ありがとう。俺はイイコに過ごします。
「こんにちは。俺は空知 神だ」
「そうですか。聞いてませんよ。私は風紀ではないので取り締まったりしませんが、早く戻らないと連絡ぐらい入れるかもしれませんね。生徒会副会長としてノーコメントではいられませんので」
「風紀がなにかは知らないが、連絡は入れないでほしい。俺は用事があってここにいる。とても大事な用事だ」
きれいな顔できれいな微笑みを浮かべたままのボルゾイちゃんは、俺をあの校舎に帰したいようだ。
だけども俺には用事がある。
追い返されるわけにはいかない。
「お願いがあるんだ」
「不躾ですね。あなたとはこれまで会ったこともないのですが」
「違うんだ。たぬきちゃんのことなんだ」
「比喩表現が過ぎます。どなたのことをおっしゃっているのか、早急に固有名詞を言いなさい」
「こゆう、え、と……うぅ……」
「本名を忘れるのはいかがなものかと」
にこやかに笑ったまま、ボルゾイちゃんはずばずばと物を言う。違うんだ。いやあ、待ってくれ、すぐに思い出す。がんばる。
うーんうーんと悩みながら、たぬきちゃんに関する記憶をたどっていく。
狐さんはタカと呼んでいたから、名前はタカに関係するはずなんだが。
それなら苗字はなんだっただろうか。とてもポピュラーな文字だったから印象が薄いよう……がんばる。
「あぅぁ……え、ぇ……ああっ、ヤマダだ、ヤマダタカユキだ」
「単純な文字列。そんなありきたりな名前、忘れる人がいたんですね」
ぽん、と手を叩いて思い出したとはしゃぐ俺を、ボルゾイちゃんは吐き捨てるような口調で捨ておいた。
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