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どうして? 思い出したのだからいいじゃあないか。
結果が良ければそれでいいのだ。忘れていたなら思い出せばいい。
俺は小首を傾げたが、たぬきちゃんの名前を聞いたボルゾイちゃんはそれを無視して、少し考えるようなしぐさをした。
それからどうにか思い出したようで、ああと声を漏らす。うんうん、思い出せばいいのだ。おそろい。
「山田 隆之、思い出しましたよ。確かあの子に面白おかしく巻き込まれても怯えてばかりでなにもしない、雑菌の名前がそうだったと思います」
あの子というのは転校生くんだろう。
あとはそこはかとなく評価が厳しい気がする。たぬきちゃんはすてきなのに。
俺のショックな視線に気がついて、ボルゾイちゃんはふぅと面倒くさそうな息を吐いた。
「覚えていただけ表彰モノでしょう? 興味のない者の名前なんかすぐ忘れる質ですので。思い出すのに少し時間がかかりました。無駄な時間だな」
「うん、思い出してくれたようでなによりだ。えとそれじゃあ、俺にはまだ行くところがあるから目的だけさっさと言う……たぬきちゃんをいじめないであげてくれないか?」
「私はいじめていませんよ」
俺がお願いすると、ボルゾイちゃんはにこやかな微笑みを浮かべたまま、あっさり塩味口調でサクッと否定した。
ボルゾイちゃんはいじめてないのか。
それなら冤罪? だけど、気になる。
言葉と共に向けられた笑顔になんとなく他に意味があるような気がして、俺はうーむと返事に詰まる。
ボルゾイちゃんがなにもしていないならば、たぬきちゃんの話に出てくるはずもないのだが……変なかんじ。むー。へん。
たぬきちゃんは、生徒会というものが怖いのだと言っていた。
睨まれ、蔑まれ、恐ろしいのだと、確かにたぬきちゃんは言っていた。ボルゾイちゃんはそこのフクカイチョウなのだ。
たぬきちゃんの嘘だとしても、たぬきちゃんが生徒会たちを悪く言って敵に回す必要性を感じない。あとボルゾイちゃんはずっと笑顔でたぬきちゃんじゃ勝てないと思う。
ならボルゾイちゃんの嘘?
嘘を吐く意味がないぞ。
頭がおバカな俺は、うーんうーんと悩んだ。そしてなんとか考えた。
もしかしたらボルゾイちゃんは、誤魔化しているのではないかと思う。なんとなく。嘘じゃなくてものは言いよう。
「あの、その……えと、……」
「まだなにか」
「うーん、うーん」
「お悩みでしたらご自分の校舎に帰ってから存分にどうぞ」
「いやぁ、怒ったらごめんなんだ。俺はバカだから、うまく言えないが」
「はぁ」
「もしかして、誤魔化していたりするか?」
「はい?」
「たぬきちゃんをいじめていないかもしれないが、それにつながることであったり、ちかしいものであったり、たぬきちゃんが怖いようってなること」
うまく聞き出そうとしたが、やっぱり俺には小細工を考えるなんて難解なことができなかった。
すぐにギブアップしてしまい、ボルゾイちゃんに直接聞いてしまう。
ボルゾイちゃんの表情は、変わったりしなかった。だけど、なんだか黒いものが現れたような気がする。
人が怒ると現れるあれだ。
怒らせてしまった。
「そうですね。少しは頭が使えるようでよかったです。だってね? 私は物事をはっきりさせる質なので、ああいうタイプはうっとおしいんですよ。正直ね」
「ああいうタイプというのが、わからないけど……ならたぬきちゃんを、放っておいてあげてくれないか?」
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