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くそう、仕方ないじゃないか仕方ないじゃないか。
普段はほとんど話さないのに、俺は今日急に人間とたくさん話したんだぞ。まだまだ人間と話すのはへたくそなんだ。
こっちのルールは、実はあんまり。
もちろん急に人間とトモダチになるのがうまくいかない理由なんかわからない。
俺を酷い目で見る人や区別する人も、全然よくわからないんだ。
──だ、だからここでそんな目でこっちを見たって、俺は素直にあそこに帰ったりしないからな!
そういう譲らない気持ちでキョウアクヅラのボルゾイちゃんから目をそらさずにいると、ボルゾイちゃんは怪訝そうな表情をしたあと、深いため息を落とす。
「はぁ……お前、頭があまり足りてないんだな? あまりと言うかまったくだが」
「いやあ、でも、トモダチのことはちゃんと考えているんだぞ。俺はだれかれ構っていないわけでもないんだ。俺は確かにあっちでも一番のバカだが、ちゃんとトモダチになりたいと思った子にだけ、こうして誘いをかけているのだ」
「あっちで一番のバカだと? それは相当手遅れなバカじゃないか。ならその微生物にも劣る頭で、この俺に惹かれた理由とやらを言ってみろ。バカげた理由なら風紀送りにする」
「ううあ、ぁう、その、よくわからないが、風紀は怖そうなものに思えてくるんだ」
「俺はトロいやつが嫌いだ」
本当に辛辣だ。ハリネズミのようだが、ううむ針だらけのボルゾイちゃんか。
俺は想像した生物がかわいく思えたのだが、現実のボルゾイちゃんがギロリと睨みつけたので頭を振って、少し悲鳴をあげそうになりそうになりながらも話を始める。
「俺がその、好きだと思ったところをあげればいいんだろう?」
「まぁそうだな」
「ええと、それなら最初はな、きれいな生き物だと思ったんだ」
「わからんな。俺は見た目に興味がない」
「ん、でも、最初はそこだ」
こくりと頷く。
人気のない校舎裏で、俺は順にボルゾイちゃんのいいところを上げていく。
「きれいな笑顔だと思った。いいことだ。言葉だってきれいだけれど、ぶわっと漏れているめんどくさそうな感じは誤魔化し切れていなかったよう」
「ふん。特別棟相手に気を使いきることはない。そもそも気乗りしない猫かぶりだからな。雑で結構」
「そこも好きだ」
「あ?」
「ボルゾイちゃん、ほんとはあっちもこっちもくだらないと思っているだろう? 他人に興味がない。ないのに、ボルゾイちゃんは猫を被って笑っていた」
「…………」
「自分なりに優しくしたんだな。でもそれ以上はしたくないからそう言われると嫌になる……俺はそこにあまりなにも思わないけれど、我を通すところは美点だと思ったぞ。すてき」
「……都合よく解釈するな。物は言いよう。ただそれだけだ」
「む……だけども俺はその仏頂面も、排他的な口調も、トモダチになりたいくらい魅力に思えたんだ。すてき、すてき」
「チッ……やかましい」
一つ二つと全部ちゃんと本当のことを言ったのに、一刀両断された。酷い。
やや低い位置にあるボルゾイちゃんの眼が、俺を審査するようにすべる。かなり用心深いところがあるようだ。
ボルゾイちゃんは怖がり。
こくり、首を傾げる。
気分屋でマイペースなハムたろーより、臆病で事前防御を図る黒ラブ君より、頭のいい孤高の暴君なボルゾイちゃんのほうが、トモダチは難しいかもしれない。
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