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しばらく黙り込んで審査を終えたボルゾイちゃんは、腕を組んで顎に手を当てた。
「そこまで言うなら、仮友達にしてやろう」
「かり……かり、やだ……」
「黙れ。マンガやドラマの世界の友情物語でも夢見ているなら解釈違いだ。現実で俺のような人間と付き合っていくんだぞ? マトモな生き物は早々に嫌気がさして不平不満を溜め込むに決まっている。だから、まずは逃走を許した上でたわごとに付き合ってやると言っているんだ。良心的だと思うがね」
しょぼん、と肩を丸める俺にも動じず、返事には容赦がない。
お断わりされるよりずっとすてき。
俺はこっくりと頷く。
「うう……ああ、うう、しかたがない。かり、でいい。だけども絶対に、そのかりは取ってもらうからな。がんばってやるからな。かり……やだー」
「……まあ、せいぜいご機嫌うかがいでもしていろ」
するとボルゾイちゃんは意気込む俺から、ぷい、と顔をそらしてしまった。……道は遠いんだな?
え、ええい。人間の面倒なところ、全部受け入れてやろうじゃないか。
俺はエンジェルだからきっとできる!
うあああ! と天に向かって叫んでいると、ボルゾイちゃんにグーで殴られた。
患部を押さえるの「お前は獣以下だくそが」とお叱りを受けてしまった。
……道は遠いんだな……!
「ああそうだ」
「まだなにかあるのか駄犬」
「だけん?」
「チッ。もういい、続けろ」
「? ああ」
適当に流したあと先を促され、すこし釈然としないまま、俺はトモダチの証を取り出してボルゾイちゃんに渡した。
これが絶対だからな。
トモダチにはトモダチの証。
「このチャラチャラしたものはなんだ」
「俺のトモダチの証だ。ええと、構成は秘密だ。ないしょ。しー」
「秘密? ……微妙に腹立たしいな。まあいいが」
無表情のまま唇に指を立てる。
構成が秘密なのは、ハムたろーに言った時の微妙な表情を思い出したからだ。
たぶんだけど、あれはあんまり人間にしないほうがいいな。よくないかんじ。
俺が秘密と言うとなぜか不服そうなボルゾイちゃんだが、我慢してもらおう。
また今度大丈夫そうなら教えてあげるからな。なんなら翼をむしる体験もしていいよう。すぐ生えるからだいじょうぶ。
「そしたらあのな、これは守ってくれるものなんだ」
「なにから」
「それこそ物理的な嫌なことからも守るし、少しなら怪我も癒す。心も少し癒す。ひーりんぐ」
「つまり便利グッズかなにかか? これは。アホらしい。パワーストーンなんて興味もない。なにをしようが生きている限り死ぬ時は死ぬ。潔く死ね」
「まぁまぁそう言わずにつけてくれ。手とか首とかにうまいことつけられる」
「くれ? つけてくださいだろう?」
「うっ……つ、つけてください」
「そうだ。頼み方は大事だぞ?」
「あい……あい……」
しょもしょも俺のペースを崩すボルゾイちゃんは、俺の言葉を改めさせた。
珍しく読み間違えたのだろうか。ボルゾイちゃんが黒豹君にでも見えてきた。
だけどもなんとなーく、ボルゾイちゃんはご機嫌になったらしい。
手首につけてみて「着け心地がイマイチだな。あとでペンダントの中にしまいこんでやるか」と不満顔のボルゾイちゃんだが、黒いオーラなんて出ていなかった。不満じゃないみたいだ。嬉しい。
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