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ふと太陽を見ると、出会った頃より位置がなかなかズレていた。
ああ、時間がずいぶん経ってしまった。
「俺、もう行かないといけない」
「ああ? どこにだ? 寄り道していないでさっさと帰ってしまえ」
早く残りの一人にお願いごとをしないといけない俺は、ボルゾイちゃんにさよならを言った。
しかしボルゾイちゃんは、さよならするなら特別棟へ帰れと言う。
「まだだめなんだ。最後はねこちゃんに会いに行くんだ」
「猫? 小鳥が猫に用とは笑わせるな。無様に食われる気か?」
「俺は一応エンジェル……」
「無知、呑気、アホ。ピーチクやかましい。ちんちくりんのアヒルの子にしか見えん」
「あ、アヒルはかわいいんだ、うん」
「言ってろ。そら、好き好んで食われたくないのなら素直に帰れ。特別棟とは違う意味で普通棟にもめんどうなやつらはいる。この学園が特殊だってことくらいはわかるだろう? わからなくても帰れ」
「ねこちゃんを見つけたら帰るとも」
「ダメだ。帰れ」
「でも、ねこちゃんに会いたい。約束する。ちゃんと帰るぞ。おうちへ帰ろう」
取り付く島もないボルゾイちゃんに、俺は一生懸命訴えた。
たぬきちゃんのために俺は諦めない。
帰らないぞ。絶対にお願いする。そしてお願いが通ったらねこちゃんにも俺のトモダチになってもらうんだ。したごころ。
そういう気持ちで、じっと見つめると、ボルゾイちゃんはしばらく無言でじっと見つめ返していたが、ふと組んだ腕を解く。
「……はぁ。猫とは誰だ」
「!」
なんと、ボルゾイちゃんは俺を風紀というものに差し出さないでくれるらしい。
俺は感激した。
勢い余って、ボルゾイちゃんにむぎゅっと抱きついたくらいだ。
今までで一番ってくらい早く引き剥がされたが。かなり怒ってもいた。
さみしい。まだハグできるほど仲良し度が上がっていないようだ。
「くそっ、貴様は誰にでも抱きつくのか? もしそうならばもうやめろ。寿命が縮んだわ単細胞めっ」
「すまん、ごめんなさい……仲良し度が足りなかったのだな……」
「お前もう、黙れ」
ああ狐さん。
スキンシップの壁が厚い。
狐さんはいつも俺を抱きしめてくれるのに、ボルゾイちゃんは俺を引き剥がす。
「ほら、続けろ。名前」
「ええと、待ってくれ、紙を見る」
ボルゾイちゃんに急かされた俺は、最初に狐さんにもらった紙を取り出した。
文字を追いかけて、ロシアンブルーの名前を読む。振り仮名が振ってあってよかった。なかったら俺は読めない。
「んん……ヒルマ タイヨウ、だな」
「昼間ぁ? お前がなぜあの俺様に、ああ、そうか、山田だな」
「おお、そうだ。これが最後だ。お願いする。いじめちゃやだよう」
「じゃあもう他には会ったということか。ああくそ、めんどうだ」
ぶつぶつと考えごとを呟くボルゾイちゃん。俺は踵をかえして歩き出す。
ロシアンブルーのねこちゃんに会いに行くんだ。早く会いに行って、たぬきちゃんを安心させてあげよう。
「おい、お前。昼間に用件を言ったら、すぐに帰れ」
後ろからボルゾイちゃんがそう言うので、振り返ってバイバイと手を振る。
ああそうだ。
言い忘れていた。
「その証があれば、ボルゾイちゃんが外面を頑張らなくても、そんなに苦しくなんかならないと思うぞう。そうして今度は、にこー。笑ってくれ」
「っ、くださいだろうがっ、この間抜けっ」
うおおおお。
トモダチ五人目。でき、ました。
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