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ボルゾイちゃんと別れた俺はしばらく歩いていたものの、早々に首を傾げていた。
んん、おかしいぞ。
ねこちゃんがどこにもいない。
今までは運がいいのか、すぐに目的の子たちに出会えてきた。
しかしながらねこちゃんはねこちゃん。
流石かくれるのがうまいらしく、なかなか見つからない。
狐さんがおやつにと持たせてくれたチュッパチャプスも全部溶けてしまった。ミルク抹茶、おいしかった。飴ちゃんはみんなおいしい。
ねこちゃんねこちゃんと呼びながら、狭いところ、奥まったところを優先的に探して歩く。
そしてようやく、広い森の奥にて眠るねこちゃんを見つけた。
ぽっかりと穴が開いたように木々が開けた、小さな湖のほとり。
ねこちゃんはそこでロッキングチェアに座り、本を顔にかぶせて眠っていた。
読んでいる本のタイトルは、漢字だから読めない。漢字、難しい。
すぐそばにあるログテーブルには、ティーセットが乗っていた。本で顔は見えないが、均衡の取れた体つきとさらさらと風にゆれるグレーの髪がとても美しい。
そおうと近づいて、まじまじと眺める。
ねこは警戒心が強いから、もしかして逃げてしまうかもしれない──って、わぉう。
「誰だ、お前」
急にぐい、と腕をひかれて、俺は気づいた時にはねこちゃんの上にあっけなく乗りかかってしまった。
顔に乗った本を片手でよけながら自分の膝の上に引き寄せた俺を見つめて、ねこちゃんはにやりと笑う。
切れ長の目を細め口角をあげる姿は、まさにねこちゃんだ。
毛色がグレーで瞳が綺麗な海色だから狐さんの言うとおりロシアンブルーだな。
ねこちゃんを観察して目をきょろきょろとさせる俺に、ねこちゃんは本をテーブルに置きながらジロジロと顔を近づけてきた。
「お前、口がきけないのか? この俺が、名前を聞いてんだ。答えろよ」
「おー……ごめんなさい。俺は、空知 神」
「知らねぇなぁ……お前の顔なら、ここじゃ噂になりそうなもんだけどよ」
「ここにいないよう。俺はお願いがあって、今日はがんばって特別棟から出てきたんだ」
「特別棟? はん、お前なにやらかしたんだ? まぁそうじゃねぇか」
「俺、バカなんだ」
「そう。そっちだろうよ。バーカ」
「バカだけど、悪さはあまりしないぞ」
「しても構わねぇぜ? ただバレちまうなんざとんだマヌケさ。悪事はバレねぇようにやれよ。俺に迷惑がかからねぇようにな」
「そうか……んん、あのな、いつ降ろしてくれるんだ?」
「俺が満足したら」
「そうかぁ」
話してる最中、ねこちゃんは俺を膝の上から降ろそうとしなかった。
いつまでかと問いかければ、機嫌よくにんまりと笑われる。かわいい。
ねこちゃんは王様なんだなぁ。
ここはすてきなくに。
「クク、いいねぇ。揺らぎの少ない生き物好きだぜ? ジン」
「うれしい。俺もねこちゃん好きだな」
「そうかい。ここは校舎から離れてるし、森の奥だから誰も来なかった。俺の隠れ家だ。お前、よく見つけたなぁ。すっげーやっべー」
「うん、俺な、ねこちゃんを探してたんだ。なかなか見つからなくて、ようやくここで見つけた。いっぱい探した」
「ふぅん?」
キィ、キィ、と俺を膝に抱いたねこちゃんは、ロッキングチェアを揺らす。
ねこちゃんの腕の中は狐さんみたいに温かくて、体の大きい俺でも簡単に捕まえられる。
狐さんもねこちゃんも、王様はみんな俺を捕まえるのがうまいみたいだ。
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