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「お願いを、聞いてほしいんだ」
「俺に? 初対面じゃねぇの」
「たぬきちゃ、あ、いやぁ……えーと」
「ん?」
「ヤマ、……ダ? タカユキ……の、ことなんだが」
「なんだそのあいまいな感じ」
常にニヤリと笑うねこちゃんは、悩みながらもたぬきちゃんの名前を思い出した俺の腰を、ツンとつつく。
名前を覚えるのは苦手だ。動物として見ると、かわいくて覚えられるのに。
「そんなやつ心当たりねぇよ」
「あの、あの……転校生くん、という人と一緒にいた、小さい子だ。臆病で、いじめられている。それからしょぼーん」
「んー……? んー……あー、ああ、あいつか」
「お願い。ねこちゃん、その子をいじめないであげてほしい」
ねこちゃんにつられてユラユラと揺れながら、俺はじっとねこちゃんを見つめる。
ねこちゃんは口元を緩めたまま俺の頬をなでてから、するりと手を離した。
「バーカ。俺はなんもしてねえよ。あーゆーの興味ねぇから、あれがアイツのそばにいようがいっつも平和に無視してるし」
「他の子にいじめられててもか?」
「そうだなァ。無視無視」
ねこちゃんはクツクツと笑っている。
これはホントのようだ。ボルゾイちゃんもねこちゃんも、興味がないといないことにしちゃうんだな。
組織のツートップだから、自分がブレない。すてきだけど、だめ。
たぬきちゃんのためだもの。俺は贔屓。
「無視も、心が痛むものだ」
「いじめるよりましだろ? それともいじめたほうが良かったか? 俺のやり方はなかなか過激で愉快だぜ」
「いや……。ねこちゃんはずいぶんマイペースなんだな」
「ククク、俺は気に入ったやつ以外に興味ねぇンだ」
その点お前は合格ライン、と楽しげに笑うねこちゃんは、俺の耳を軽くはんで甘やかすように舌で舐める。
ううん……それは確かに嬉しいが、俺はたぬきちゃんのことを優しく扱ってあげてほしいのに……困ったな。
たぬきちゃんは初めての普通のトモダチだ。俺にとって特別な、オトモダチだ。
その旨をねこちゃんに伝えると、ねこちゃんはス、と目を細めて不機嫌そうな顔になったかと思った直後、鼻先スレスレまで俺に近づいた。
「あぁ? 特別? 俺より?」
「? いや、ねこちゃんよりとかじゃないぞ。たぬきちゃんが特別。たぬきちゃんが屋上に来てくれなかったら、きっとずっと普通棟のトモダチはできなかったからな」
「なんだっていいさァ。俺が気に入ってるやつの一番が俺じゃねぇのは、気にくわねぇンだよなァ……」
「うん? うん、ねこちゃん……オトモダチになってくれるのか?」
「ハン。なってやるよ、オトモダチ」
「! おお……」
俺は思わず感嘆の声をあげた。
自主的に俺のオトモダチになってくれる人間は、ねこちゃんが初めてだ。
狐さんは気がついたらいたというかトモダチの中のトモダチで、そもそも人間じゃない。たぬきちゃんは俺がオトモダチ申請をしたし、今日仲良くなった他の子たちもだ。
嬉しくなった俺は、感極まってねこちゃんに抱きついた。
「おっと。熱烈だな」
「嬉しい。最近で五人目だ、俺のトモダチ。たいせつにする。ねこちゃん」
「は、少ねぇな。しかも最近でかよ」
「今まで一人だけだった、トモダチ。五人に増えて嬉しい」
「へぇ。まぁでも妥当か。無駄に多いより居心地のいいヤツだけ集めるほうが利口だぜ。俺はそうしてる。お前もそうしろよ」
「ああ、そうする。だからねこちゃんがその一人で、とっても嬉しいんだ。俺とたくさん仲良くなろう?」
「っ、んっ」
トモダチレベルを上げるために、俺は狐さんにするようにねこちゃんの唇に自分のを合わせて、ヌルリと舌を突っ込んだ。
仲良くなるにはたっぷり触れ合う。
な? 狐さん。
トモダチ六人目、できたぞ。
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