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(side妖)
「狐さん、ご飯を食べに行こう」
神がいつも通り屋上の貯水タンクの影で寝ていた俺にそう声をかけたのは、不動の一番の確認をした次の日の昼だった。
昨日の話を聞くに、だ。
書記の平本が臆病過剰防衛型で、人見知りを治す一環として、友達になるようごり押したらしい。
そして昼飯の約束を取り付けた、ということなのだろう。
いい。そこまではまだいい。
俺も神に友達ができるのは、なにも悪いことではないと思う。むしろ、いい。
神の友達は俺の友達だ。
俺は人間を愛する九尾狐だから、人間を愛する天使のチョイスを疑ったりしない。
タカなんて、人選が最高だと思った。
タカは無害で見ていてかわいい。よく神と連れ立って昼寝をしている俺のところへ逃げてくるため、三人で一緒だ。
天使とたぬき、守るのは簡単だぜ。
俺はやむなく、九尾なのだから。
今回のことだって、それに起因する。
初めての人間の友達であるタカと、昼飯を一緒に食べたかった神。
しかしなんだか君に連れていかれて、なかなかお昼に抜け出すことはできにくいのだ、と断られた。
神はそれで動いたんだ。
俺もそれならと行かせた。姿を消して情報も集めた。
だけどな、神。
そんな灰汁の強いやつらを引っ掛けてこいなんて、俺は言った覚えないんだがな。
こっそり温室に向かうために遠回りをして本校舎に向かえば、ハムスター、もとい小塚に出会い、妙に絡まれる。
神のことをからかっているのだが、神は嫌味やなんだはよくわからない。
素直に返事をするので、なかなか小塚の思い通りの反応をしないのだ。
しかし、小塚は呆れているように見えて、なんだか楽しんでいる気配を感じる。
最後に去り際となって額にキスを仕掛けた小塚だったが、神はキスが元々好きなので、頬にキスを返された。
赤くなって逃げて行ったぞ。
にやけ面がはがれていたな。
その後は上品で毒舌なボルゾイ、もとい咲乃に出会い、出会い頭にツンツンされた。
敬語キャラだったはずだが、実は口が悪かったらしい。
神が少し押され気味ながらも言葉を返すが、三倍ぐらいで返されて撃沈している。
強いな、ナンバーツー。
有象無象の頂点である生徒会の二番手だけある。流石。
だけどしょぼくれる神の様子を見て、悪くないな、という顔をしているのはバレバレだ。
最後にバイバイのハグをされて、キレ気味に去って行った。
悪態二割増しだったということは、照れているんじゃないかと予測している。
そしてラスボス。
気まぐれ俺様ロシアンブルーの、昼間に出会った。
小塚と咲乃はいつも通りなんだか君のところに行ったらしく、昼間も食堂に向かう予定らしい。
神のネクタイに指をかけて、「お前もどうだ? なぁ」と挑発気味に、にんまりと笑う昼間。
けれど神は挑発すら気づかず「先約があるからだめなんだ」ときちんと断っていた。
それは褒める。
腹が減ると昼寝に支障が出るし、人混みは嫌いだ。
でもお気に入りをそばに置いておきたい昼間は、いささか不機嫌そうに神の首に腕をまわして、深いキスを容赦なくお見舞いした。
これには今まで姿を消していた俺も少しびっくりして、一瞬姿を現してしまったほどだ。
友達になったならばキスぐらいはするだろうけど、俺の前でするのはやっぱり嫉妬する。
一日離れたらこれだ。
神は天使なので、話すだけで人間の心を癒しやすい。困りものだな?
友達なら構わない。俺も守るぜ。
でも惚れられると、守る俺のやる気というか、気分というか、そのあたりがブレる。昼寝の夢見が悪くなるしな。
天使である神は、人の心を癒す。
九尾狐の俺は、人から邪気を遠ざける。
役割、効果が違う。
惚れるという感情は邪気じゃないから、俺の加護で飛ばせない。
俺はなんとも言えない気持ちで、平本との昼食中、拗ねて神に張りついていた。
平本は驚いていたが、なんだか君が好きらしいのでなにも言わず。
のそのそと神と会話しながら、ゆっくりご飯を食べていた。
これは無害な犬か。
犬は割と好きだぜ。狐はイヌ科だから、仲間だ。狸もな。
それは置いておいて、神に絡みつきたくもなるだろう? 俺は正しいと思う。友達にテンションの上がった神は、かのなんだか君にひけを取らないタラシっぷりだ。
実物天使の涙に羽に、人間界にはないような貴重なものをほいほいと。
一昨日の晩、自室で号泣していたのは、それを作るためだったのか。
羽も根元のふわふわの部分をむしっていた。痛くないらしい。
ちなみにタカにもそれは渡してある。
こっちは俺の作った狐火入りの数珠も渡してあるが。
もしタカがまた虐められたら、神のでふっとび俺ので燃える。
結構無敵。
その隙に逃げればいい。
なんにせよ、神は俺だけの天使でよかったんだけど、仕方ない。
人間の友達ってのは多いな……。
せめて、あいつらが神に惚れないことを祈ろう。だらりと昼寝をしながら、拗ねたくなる。
俺も神も表情の変化は顔に出にくいのでわかりにくいが、中身はただの純粋無垢な、狐と天使なのだ。
了
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