悪人正直者【完】

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 10月05日 PM12:18 「俺と付き合え」  昼休み。  俺は裏庭に深瀬を呼び出し、言われた通り告白を決行した。  呼び出しの手紙なんかで律儀にのこのこやってきた深瀬は、開口一番俺の台詞に目を見開き固まっている。  それはそうだろう。  正義の童貞戦士なら必ず釣られるようピンクの便せんハートのシール、かわいさあふれる丸文字で『お昼休み、裏庭まで来てもらえませんか? 大事なお話があります♡』だ。  試しに仲間の後輩に試したらしっかり八人釣れた。  確実にかわいい女の子が待っているとばかりに思ったはずだ。  なんならエッチな妄想の一つや二つ、してもいい。  できるものならしてもいいぞ?  真っ赤な暴力と(不本意ながら)悪名高い校内トップの素行不良者こと俺で。エロ同人みたいにな!  内心ふふんと笑う。  深瀬はそっと自分の頬をつまみ、むにりと引っ張りつねっている。  俺は反応の薄い深瀬に焦れて、ズズイと詰めよった。 「おい、深瀬。早く答えろ」 「……ぇ、あ?」 「まぁ返事はハイかイエスかだが」 「なっ……!?」  少しかがみ、深瀬の顎をとって顔を近づける。  よく見たところで取り留めのない顔だ。ん、案外まつ毛が長い。  吐息がかかる程の距離。  深瀬が狼狽えるがどうでもいい。 「待、っむ、村田……っ」 「返事は?」 「っは、い……っン!」  ──告白、キス。  ちゃんと、死にそうな顔でバカみたいに赤く染まった深瀬の震えたイエスを聞いてから、俺は深瀬の唇に口づけた。   ◇ ◇ ◇  10月17日 PM10:42  予想外だった。  俺は溜まり場で頭を抱える。  そんな俺を慰めもせず、指をさしてゲラゲラと笑う仲間たち。  だが構う気にもならない。半泣きで膝を抱え、ちびちびと酒を飲む。  なにが困ったのか。  俺の彼氏、深瀬のことだ。  深瀬は俺と付き合った。半ば無理やりだ。舌まで挿れてキスしてやった。やっぱり無理やりだ。罰ゲームだから。  だが深瀬は、俺をきちんと恋人のように扱った。  交換した連絡先を使って、一日数回メッセージを送ってくる。  寝る前におやすみ、朝におはよう。  多すぎず、少なすぎず。  だが取り留めのないメッセージが送られるたびに、俺は首をかしげ、数日たったころには頭をひねって返信した。  休日に電話がかかってきた。  風呂上がりの俺にかかってきた初めての着信は、緊張した声色の深瀬の思いつきだった。  声が聞きたかった、なんて。  俺は「録音して聞けばいいんじゃないか?」と答えたが、あとでデリカシーがないと仲間になじられた。  深瀬はどう思っただろうか。  昼食を食べよう、と俺の頭に負けず劣らず真っ赤な顔で昼休みにやってきた。  周りのクラスメートたちはざわつき深瀬がパシリになったのだと囃したてたが、深瀬はリンゴ顔で俺をまっすぐに見つめ、教室から連れ出したのだ。  昼飯の味は覚えていない。  食べたかどうかも覚えていない。  なんと言ってもファーストインパクト。一緒に帰ろう? と言われた時は本当に驚いた。  俺は絶賛喧嘩中だったからだ。  とりあえず喧嘩はサクッと終わらせたが、今しがたまで人を殴り飛ばして返り血のついた俺にも、深瀬は変わらずヘラリと笑いかけた。  深瀬は、人を殴り歯や骨で皮が剥けた俺の手をそっと握った。  この日は途中まで一緒に帰った。  俺はその時、初めてきちんと深瀬と言う人間を頭の中に入れたのだ。  そんなこんなで、俺は深瀬という人間をはかりかねていた。  無理やりに付き合ったのに筋を通すのか、こんな俺だが恋人にした以上そう扱うと言うことなのか。  自慢じゃないが爛れた性関係しか結んでこなかった俺だから、なんというか、清いお付き合いなんぞしたこともなかった。慣れないのだ。  そう悩んでいることを仲間たちに説明すると、案の定笑い転げられ酒に手を出したのが数時間前である。  スン、と鼻をすする。  どうしていいかわからない。 「あーッ腹いてぇ……」 「割に面白い展開だなァ」 「面白がるな……どうして笑う? 俺は、俺は困っているんだ……」 「はー酔ってやがる」 「よし、こいつ酔ったら記憶なくすから、全裸ダンスさせるなら今だぜ」 「んん……こらこら……なにをする……ふく? ふく脱ぐのか……?」 「そうそう」 「ぬぎぬぎしましょうね~」  ──次の日の朝。  俺の記憶にあったのは、光るカメラレンズだけだった。  誰かこの酔い潰れた全裸集団をなんとかしてくれ。
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