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10月19日 PM08:26
ショッピングが終わってからは、深瀬の家へお邪魔した。
どうやらこの土日家族は出かけているらしく、一人ではつまらないから、とお呼ばれしたのだ。
深瀬が作った晩御飯のオムライスはなかなかうまかった。
大味で細かい調理を要さない料理は流石に男子高校生だ。
そして深瀬が洗い物を終えて戻ってくるまで深瀬の自室に待機している俺は、静かに決意した。
深瀬はかなりいいやつだ。
俺は深瀬が気に入った。
だから話すべきだ。
俺が告白したのは罰ゲームで──「好きだ」と嘯いたことを。
これはたぶん、酷い話だ。
知っていた俺は初め深瀬を認知すらしておらず、知らない深瀬は脅されて頷いただけなのに、マジメに俺を恋人扱いして付き合っていた。
最低だと、二度と顔を見せるなと、完膚無きまでに嫌われるかもしれない。それでもかまわない。
俺は正しくいい子ではないから。
酒も飲むし喧嘩もするしバイクで爆走するし煙草を吸ったこともある。
学校は行くが授業はサボるし居眠りもする。校則なんて気にしない。
校則どころか法律もアレで、警察のお世話になりかけたことも残念ながらある。他にもいろいろと、深瀬に言いたくない悪さをして生きた。
くだらないお遊びが好きなのだ。
バカな俺は昔からさほど未来に興味がない。刹那を愛する。悪癖である。
真面目な人なら眉をしかめるだろう。ましてや罰ゲームで他人の心を弄ぶなんて。
それだって、深瀬が俺のお気に入りだからばらすんだ。
そうじゃないなら俺はさっさとキスにデートにと強引に迫り、適当にセックスしてゲームを終わらせていた。
俺は極端で、好きかどうでもいいかしかない。どうでもいいものの扱いはすこぶる雑と仲間からのお墨付き。
それでも教えるのは、騙し続けるのが心苦しく感じてきたからだ。
なぜだろう?
わからないが、このまま最悪なパターンでバレるのだけは困ると感じる。
特に面白みのない部屋の中。テレビにもゲームにも漫画にも深瀬のベッドにも手を出さずに、正座して待つ。
ケリをつける。覚悟はした。
「おまたせー」
ガチャ、とドアの開く音に大げさに体がはねる。
洗いものを終えたらしい深瀬が部屋に戻ってきた。
盆にコーラのペットボトルとグラスを二つのせ、器用にドアを閉じ俺の前に座ってテーブルにそれらを置く。
俺はごくりと溜まった唾を呑んだ。
「さーてなんかする? ゲームあるしハマプラあるしトランプとかすごろくもあるけど。普通にダラダラだべっててもいいぜ」
「ぁ、深瀬」
「はーい?」
なにも知らずにどこか浮かれた様子でこちらを向く深瀬。
俺はもういちど気合いを入れて背筋を伸ばし、膝の上に両手をついて、できうるかぎり真剣な表情を保ちキリリと深瀬を見つめた。
「深瀬、お前はいい男だ」
「え。なんだ突然」
「特に話す機会もなかった俺を彼氏扱いしてくれた。俺を怖がることもなく、見た目や噂以外の俺もちゃんと大事にしてくれた。普通のお付き合いなんぞわからんが、意識的にコミュニケーションを取ろうとしていたことはわかる。俺のド欠点だと言われ続けた短所を自分にとってはいいことだと言った。俺といて楽しいと言った。お前はきっと俺と気が合う。なんせ料理もうまいからな」
「そこなのか?」
「ああ。重要なところだ」
「作る機会が多かっただけだと思うけどなぁ……」
「その他もろもろいろいろ含め、俺はお前をお気に入りにした」
「…………マジ?」
「大マジだ」
こくりと真剣そのものな表情のまま頷くと、深瀬は黙って小さくぐっとガッツポーズした。
隠れてしたもんだから肘がテーブルに当たって悶絶していたが。衝撃過ぎて頭がおかしくなったのだろうか。
悲鳴を堪えてひとしきり悶えた深瀬は、少し涙目で俺を見る。大丈夫だ。見なかったことにしてやる。
俺は無言で親指を立てた。
深瀬も立てた。
「ということで、俺はお前に謝らなければならないことがある」
「お、おぉ」
「すまん。──実はお前に告白したのはただの罰ゲームだったんだ」
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