ヤギ系彼氏が生態系を崩しそうでヤバイ【完】

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 俺はヤギだ。  ヤギはこの学園ではそこらたしで見かける、ただの草食動物である。  みんな少し気性が荒く敵とみなしたら絶対に一矢報いる性格ではあるが、別段珍しくはない。  俺が唯一他のヤギと違うところと言えば、左のツノが折れているぐらいだ。  種族数一位のネズミには敵わずともそこそこに数のいる種だぞ。  特に仲がいいのは羊種。  俺の親友も羊である。  変わらない平穏を望む羊と気にくわないことにすぐ首を突っ込むヤギとは、お互い影響しあってバランスがいいのだ。  まあ、数の多いヤギとヒツジ。  群れたら全くわからない。  全校集会なんて牛種も交えて牧場だ。  ──で。  そんな牧場状態の全校集会中にもかかわらず、全く視線をブレさせずこちらを見つめる人がいた。  絶賛ごあいさつ読み上げ中のライオン種──生徒会長である。  ごあいさつを俺を見つめながら読むから、俺に言われてるみたいでなんかいやだ。あとで抗議しよう。隣で親友は爆睡してるし暇すぎて気になるぜよ。  まったく会長さんってば。  壇上から俺を見つけ出すとか猛禽類でもないのにマジで凄いけども。  てかなんで見られてんの? 俺。  あれか? こないだお姫様だっこで保健室連れて行ったからか?  それとも昼寝してるとこ見っけてつい隣で寝たからか?  いろんな人に似たようなことするからようわからん。うーん。  結局、集会中ずっと理由を考えていたがわからなかったので、答えはいつか本人に聞くことにした。  今日は授業がない。  集会が終われば、午後からは好きにできるというわけだ。  寝こけている親友は置いてさっさと食堂にでも行きましょう〜っと。  今日はなにを食べようかね。  和食だろうか。洋食だろうか。んんん、ともかく人参でも食べよう。人参たっぷりのシチューで決まりだ。  空きっ腹を黙らせるメニューを脳内会議しつつ、てくてくと歩く。  俺は機嫌が良かった。  人参が好きだから機嫌が良かった。  が。  そんな俺の目の前に、のそのそと歩く巨漢の背中が現れた。  真っ白でちくちくの髪。  聞いた話では二メートル越え。  ──こいつが現れちゃあおちおちウキウキもしてらんねぇぜ! 「白クマあああああッ!」 「ふがッ」  現れたのは、デカい代表のクマ種ことホッキョクグマだ。  容赦なく回し蹴りを背後から浴びせられた白クマは、マヌケな声を上げてドバターンッ! と地面に伏せる。  ふん、口ほどにもない。  俺がノーモーションで白クマをどついたせいで、周りの小動物がキャーッと叫びながらわらわらと逃げていった。  メスかお前らは。ここは男子校だ。でもまぁごめんよ。つい報復しちゃった。  周りの生徒にごめんよごめんよと謝っていると、ようやく「うぅ……」と呻きながらのっそり白クマが起きあがる。  これでもコイツは白クマの頭だ。  クマ種の中でもデカイ白クマの中で一番強い白クマなのだから、ただのヤギの蹴りなんてどうせ大して効いていない。 「イテテ……この威力は、アイツだな、八木田(やぎた)だ。……当たったろ?」 「うっせえ白クマドヤ顔すんな。お前、よくもこないだは俺のランチタイムを邪魔してくれたな? お前が俺のテーブルに倒れ込んで寝こけるから昼飯が食えなかったじゃねえか。しかも寝ぼけて俺の昼飯を全部食いやがった。腹ペコ寝坊助とかシャレにならん」 「八木田、おれの名前は城田(しろた)だ」 「ちょーどーでもいいんですけど?」 「んん……ひでぇ……」 「酷くねぇ。つかお前なぁ〜っ何回俺の敵認定受ければ気が済むんだよ。なんなの趣味なの? バカが趣味なの? わざとやってんならヤギさん直々に眼球一突きにしてやってもいいんだぞ。俺は殺ると言ったら殺る!」 「んん、ああーん、それもいいなあ……お前の暴力はなかなか強力で好きだ……暴力振るわれたいんだもん……ぐー……」 「寝んな。起きろ。……生きろ!?」  拳を握って中指を立てると、なぜか興奮して俺に抱きつこうと両手を開きふらふらと歩く白クマ。  その軌道が見事に開いた窓へ向かって落ちかけたので、俺は慌てて白クマのシャツをどっせいと引っ張った。  ちなみにこれ、いつもな。  手のかかるド本能バカなんだよ。 「やーぎーたー……ぐー……」 「わぁったよもう寝てていいから死ぬなって! 救出の勢いでバックブリーカーキメられたかねぇだろっ」 「むにゃ、わかったわかった……」  くそーまたしても俺の空腹をウザ絡みで悪化させやがって……!  でもこれ無視したら死ぬし蹴り飛ばしたら喜ぶだけだしむしろ懐いて鬱陶しいし、そしたらまたいつかみてぇに階段にでも突っ込んで血みどろのまま熟睡しやがるんだよなぁ。  そんで死にかける。  いやなんでいつもいつも死にかけてんだよこのバカもうバカあぁ──もう! 「めんどくせぇ! 持つ!」 「ひゃっほ~い……」  考えるのがめんどくさくなった俺はどこでも眠る年中冬眠クマな城田を気合いでどっせーい! と持ち上げ、近くの教師用仮眠室に走るのであった。  ったく、俺のお姫さんはお前じゃねぇってのに抱き抱えさせやがって。  白クマは毎度手のかかるやつだぜ。
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