ヤギ系彼氏が生態系を崩しそうでヤバイ【完】

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 白クマを教師用仮眠室に預けたあと、ハラヘリの俺はさっさと食堂へ向かった。  やたら木林(きりん)先生と曽宇(そう)先生に絡まれたけど、これもまたいつものことだ。  背高のっぽと力持ちめ。  俺を放り投げて遊ぶんじゃない。  二人揃ってなぁにが「ついでにお昼ご飯作って行ってよ〜」だ。  そりゃ料理も趣味だけどいつでも作ると思うなよ? むしろヤギさんはハラヘリだかんな。メェ。 「んご〜……なぁんかどこ行っても誰かしらに絡まれるんだよな〜……」  絡まれんのも絡むのも好きだからいいんだけど、あんまスキンシップするとまたアイツが拗ねちゃうじゃんよ。  嫉妬深くて泣き虫で過激派なワンコを思い出して、少し笑う。  俺のかわいいワンコちゃん。  群れる種類なのに他人は邪魔だとか興味ないとか言って、いつも一人だ。  でも俺には隙あらばべったり引っ付いてるしたぶんジョークだぜ。  そういうとこもかわいいだろ?  ただちょーっとヤキモチ焼きで暴走気味で、俺と他の人が仲良くしているとなんでかすぐ泣くんだ。  だもんで、ワンコが拗ねないよう俺は誰かに会いにくいようにあえて裏道を通って食堂に向かう。  外側から食堂入り口横の出入り口に行けるなんて、誰が知ってるんだ?  きっと俺だけに違いない。へへん。やったぜヤギさん。流石ヤギさん。  なんて──機嫌よく歩きながらふんふんと鼻歌を歌っていると。 「あ先輩お久しぶりです!」  なんてこったい!  さっきまで誰もいなかった俺の前に、後輩が一人現れてしまった。  俊足で有名な知多(ちた)くんだ。  茶髪にまだらな髪がトレードマーク。小顔で細身で手脚が長い。ヘビ種とはまた違う華奢なしなやかさがある。  しっかし相変わらず息継ぎなしの早口がデフォルトなんだなぁ。  まさか俺の秘密ルートに誰か来るとは思わず、にこにこと笑う知多くんに俺はポカンとしてしまった。 「久しぶりだなぁ、知多くん。知多くんのランニングルートはこんな裏道まで組み込まれてんのかい?」 「はい! 学園のだいたいの敷地は複数の外回りルートのどれかに組み込まれておりまして俺は定期的にどれかを走っています! 会いたくなったら言ってくださいね! 先輩に呼ばれたら一分以内に駆けつけますから!」 「うげ〜速いな~」  知多くんが足をばたつかせるものだから、俺はうげぇと舌を出す。 「俺は知多くんとかけっこしたくねえ。体育大会のリレーはウマ種のサラブレッドと走るべきだ。アイツらなら持久力とスピードでどっこいだろ?」 「どっこいですが先輩が応援してくださるならサラブレッドにも勝って見せますよ! それにもしかけっこで先輩と当たったら俺先輩を担いで走ります! 一緒に一番を取りましょう!」 「その手があったか!」  にこにこと笑って親指を立てる知多くんに、俺は両手でグッ! と親指を立てかえした。  完璧すぎる作戦じゃないか。  次の徒競争は俺たちがもらったも同然だな。一位はかたいぜ。  バイバイと手を振った知多くんは、来た時と同じように見事なスタートダッシュの俊足で走って行った。  チーター種はほんとに速いな。走るの大好きマンだ。たぶん三分後には休憩をとっているはずだけど。  ──それからまたしばらく歩き、俺はどうにか食堂に到着した。  昼時の盛況な食堂だが、席をとることにも成功したぜ。  てかウサギとリスが譲ってくれた。  キャーだって。叫ぶ相手を間違えてる。よく見な? 俺はヤギだ。  だけど混雑の中席をとるのは面倒なので、受けた善意は素直に受け取ることにした。そこそこすみで絡まれにくそうだし。いい席だな。  お礼を言って数言話すと、更にキャッキャと盛り上がっていた。不思議な現象過ぎる。  なんにせよ、大団円。  うきうきとようやくご所望のシチューを注文することができた。  野菜たっぷりのほかほかシチュー。ウミガメシェフが作る料理は絶品だ。  十数分待つと、にやけた俺の前にス、とシチューが差し出された。 「お待たせいたしました、八木田様。草食用ホワイトシチュー人参多めでございます」 「おおーっ。ありがとうございます飛揚(ひよう)さん」 「一介のウエイターの名を覚えていてくださったとは。光栄でございます」  ニマン、と笑みを浮かべるのはヒョウ種の飛揚さん。  ここのチーフウエイターさんで、スマートな体型に燕尾服がよく似合う身のこなしの美しい大人だ。  本心の読めない感じだけど、俺としてはたぶん普通にイタズラ好きのお茶目な人だと思うんだよな〜。 「そういえば八木田様、料理長が会いたがっておりましたよ?」 「海亀(かいき)さんが?」 「ええ。シチューに人参を山盛りながらアイツは薄情だ反抗期だ冷たいだと管を巻いておりました。いつも通りただ拗ねているだけでございますよ」 「ほーん、そんじゃ魅惑のおっさまに料理でも習いに行くか」 「ふふ、息子の様に思われていらっしゃいますからね。きっと喜ばれます」 「クッキングパパだと思ってるって言っといてくれ」 「お任せあれ」  パチン、とウインクする飛揚さん。  やけにそういう仕草が様になる人だ。俺がウインクしたら抱腹絶倒間違いなしだからな。  話を終えた飛揚さんは、では、と一礼して去っていった。  クールビューティ?  チャシャネコみたいだと思う。  そんなことを考えながら、ふと思い立ったので飛揚さんを呼びとめる。 「はい?」 「飛揚さんは俺に会いたがってねえの?」 「はぁっ!?!?」  耳と尻尾がピン! と立っていた。  一瞬素になったな、ありゃ。
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