レーツェルの不思議な箱

1/1
前へ
/1ページ
次へ
私は箱。 名前は無い。 ある日幼い女の子の下に届けられた。 女の子の名前はレーツェル。 レーツェルは私を大層気に入ったらしく、喜んで私を抱擁していた。 それからずっと私とレーツェルはいつも一緒だった。 朝起きてから、夜眠る間も。 晴れの日も雨の日も。 私は話す事は出来ないが、それでもレーツェルはどんな些細な事でも話しかける。 お風呂で私を一生懸命洗ってくれる。 私は充実した幸せな日を送っていた。 しかしその幸せは突然破られた。 レーツェルが泣いている。 どうしたのだろう? その理由をレーツェルは話してくれた。 「あのね、箱さん。私はもうすぐ死ぬんだってパパとママが話していたの?死ぬってどういうことなのかな?」 幼いながらに死という恐怖に直面していたようだ。 レーツェルが理解出来る範囲で説明してくれた。 肺を患っている様だ。 もうそんなに長くはない。 まだ小さい子なのに……。 両親は絶望して泣いていたそうだ。 自分が死ぬことよりも両親を悲しませている事が悲しいらしい。 私は強く願った。 私を使え。 私の中には希望というものが残ってある。 私の存在は消滅してしまうが、レーツェルの命を救う事が出来る。 私の願いが通じたのだろうか? 「箱さんはどんな願いも叶えられるの?」 私は返事が出来ない。 でも私に願いを念じればレーツェルの命は救える。 私はきっとその為にこの子の下に送られたのだろう。 だが、レーツェルは全く違う事を願った。 「箱さんが独りぼっちになっても幸せでいられますように」 自分の命よりも、自分が死んだ後の私の事を案じている様だ。 ……私が幸せでいられるようにか。 翌朝、レーツェルの願いは叶った。 私は今レーツェルの側にはいない。 空の上から彼女を見守っている。 「あれ?箱さんどこにいったの?」 レーツェルの願いは「私が幸せになりますように」だった。 私の幸せは「レーツェルが幸せである」こと。 泣いてるレーツェルをあやす両親。 彼女の病は奇跡的に回復した。 しかし彼女は泣き止まなかった。 奇跡というものは何度でも起きるらしい。 私は今レーツェルの下にいる。 私の幸せは「レーツェルの幸せ」 レーツェルの幸せは「私と一緒にいる事」 だから私は再びレーツェルの下に現れた。 彼女は喜んで私を抱きしめる。 彼女の願いがそうであるのならそれもいいだろう。 私はいつか彼女が本来のパートナーを手に入れる時までそばにいるだろう。 ひょっとしたらその後の彼女の人生を見届けていられるだろう。 私を作って彼女の下に届けてくれた神様に感謝しよう。 私は末永く彼女の幸福を見守ることにした。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加