千ちゃん

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 陸上部と言うのは、常に走っているイメージで正直入りたいと思って入った訳ではなかった。中学の時は剣を持ち戦う剣道部に憧れを持っていたが、顧問の教師が怖くて入部を断念したのを覚えている。学校にもルールがあり、何らかの部に入部する事は絶対だった。  そんな僕を陸上部に誘ったのが川中島米と言う男勝りな奴だった。小学校の頃から同じクラスに居た彼女は僕の足が速い事を上級生に伝え歩き、脅される様な形で陸上部に入る事となった。  入学したばかりの教室に三年生が入ってきて、名指しで呼び出されて連れていかれる姿は宇宙人捕獲とトレンチコートの二名の男性に腕を引っ張られるあの写真にそっくりだったと後々川中島に言われた事を忘れたことは無い。  放課後一時間以上ひたすらにグラウンドや田畑、山を走らされ、日曜の休みの日は近くの陸上競技場で練習する。移動時も何かが無いようにとヘルメットを着用し一時間かけて競技場へ行く僕達は何かの宗教かと友人に囁かれていた。  そのおかげで、否、その所為で出会ってしまった。  毎週日曜は競技場へ向かう。学校では練習できないタータンの上を走るのは、いつもより柔らかく跳ねる気がする。それでも、練習を楽しいと思えたことは無かった。ただ、競技場の周りをジョギングしていると目にする桜の木はやけに綺麗に見えていて、僕は競技場に来てまでも外を走る事が多かった。  先輩や顧問も、川中島米もそんな僕を変わり者だと言っていた事も知っていたが、僕は一人で走っている。  ある日、桜では無く、桜の下でストレッチをしている女の子が視界に残った。  それが千だった。  佐藤千。  僕らの通う学校とは違い、陸上のエリート選手が集まる強豪校のジャージを羽織り身体を伸ばす姿に目を奪われた。  初めての会話は、最悪なモノだった。 「見るな。変態」
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