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『--どうしたの陸?何かあった?』
六回目のコール音がした時だった。スマホから聞き慣れた甘い声がした途端、嗚咽が込み上げて泣きながら彰の名前を呼ぶ。
「会いたいよ……っ、会いに来て……っ!」
感情が昂り、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。事情も離さないまま口走ってしまったのに、全てを察してくれたように彰は間を置かずにわかったよと快く了承してくれる。
すると少しだけ心が安堵した。彰は優しい。何があろうと、僕は助けてほしい時には駆けつけてくれる。
「ありがとう彰……っ!」
『すぐに向かうよ。三十分だけ我慢してくれるかい?私が陸の元に駆けつけるまで電話は繋げたまま、話をしようか』
運転の邪魔になると理解していても、電話を切りたくないと思っていた僕の心を見透かしたように告げてくれる彰に一層泣きそうになりながら感謝する。
嗚咽交じりに何度も頷いて、彰の声に耳を傾ける。
『もう帰宅したのかい?学校は楽しいかい?』
「うん……っ、楽しいよ。戯那と旅行に行く約束をしたよ」
戯那とは、観音戯那という幼稚舎からの付き合いの幼馴染だ。小中高大と学校がエスカレーター式でずっと一緒なのもあり、高校もずっと戯那と過ごす事が多い。明るくて人気者で、自慢の友達だ。
彰とは、戯那の兄様の観音玲慧という人が彰と、僕と戯那と同じ関係で、彰も戯那の事をよく知っている。
『旅行に?いつ行くんだい?私もスケジュールを調整しておくよ』
「戯那が彰ならそう言うだろうって言ってた。だから一週間後にしようって」
丁度学校は冬休みを目前に控えていた。それで、一月前くらい前に旅行しようと戯那が提案してくれたのだ。
彰は幾ら多忙でも、僕が遠出する時や外泊する時など必ずついて来てくれた。大抵戯那も一緒で、僕も戯那も今回も彰はついて来てくれるだろうと見越していた。
だけど、それならどうして一週間後なのかはわからない。彰仕事が空いているのかな?多分、戯那はそれを知っていたから一週間後なんだと思うけど……僕が彰が大丈夫かなって言ったら、大丈夫だよって言ってたし……。
直前まで彰には言わないでねと言われていたけど、もう一週間前だからそろそろ伝えておかないと彰が本当について来れなくなるから良いよね……?
考えていると彰から返事がしないのに気付いて、僕は電話が切れてしまったのかなと不安になる。
「聞こえてる彰?電話切れてないよね?」
『……うん、ごめんね。電波が悪かったようだね。でももう大丈夫だよ。一週間後だね。正確な日程が分かったらすぐに教えておくれ。絶対に空けておくよ。那戯にもそう伝えておいておくれ』
電話が繋がっていた事に安堵しながら、彰にわかったと返事をする。
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