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僕の血族、井坂は常人とは少し変わっている特殊な性質を持った血族だった。この世で唯一特別相性の良く生涯を共にできる伴侶を”一目惚れ”で見つけることができるのだ。 井坂では最も重要な事だった。その相手を見つける事ができれば、生涯の幸福を手に入れる。その逆に、見つける事ができなければ不幸と憐憫される程だった。 だから、まだ運命を見つけていない井坂の人間は地位や名誉に関わらず頻繁に国内外を渡り歩き運命の相手を切望していた。それ程、井坂にとって運命の相手は重大な事なのだ。 なのにーー僕は運命の相手どころか、もう十七歳になるのに心惹かれた相手すら見つけた事がないのだ。 学校一の美男美女と謳われる人達を見ても思うのは、僕の兄様や彰の方がカッコ良くて綺麗だという感想で、周囲のように心を強く動かされたりした事はなかった。 「陸には私がいるよ。私は陸がどんな子だろうと愛している。ほら、私の目を見て」 優しく諭され、ゆっくりと顔を上げて彰を見る。穏やかな微笑みを浮かべ、慈愛に満ちた瞳に見つめられると、不思議な程に心が落ち着いていく気がした。 僕は彰の目が好きだ。優しくて温かくて、いつだって僕を見捨てずにいてくれるこの目に見つめられるのが好きだ。兄様より彰の方が好きな事の一つだった。 「陸は私の事を信じてくれるだろう?」 彰は僕がどんな人間で、いくら弱音を吐こうともいつも優しく許してくれる。この世で兄様と同じくらい信用の置ける人だ。だから、いくら落ち込んでいても彰の言葉を否定する事だけは絶対になかった。
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