period1

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高校から帰宅し、制服から私服に着替えたところでベッドに腰かけ一息ついた時だった。 横に置いたスマホが着信音を告げ手に取れば、表示された相手に胸が弾んだ。歳の離れた大好きな兄様だった。 冷静沈着でいて聡明な人で、総資産額兆を超える日本屈指の井坂グループの後継者という立場にふさわしい実力を兼ね備えた、優しく頼れる完ぺきな兄様だ。生まれつき体が弱く、他にも兄様に劣る不出来な弟の僕の事も深く愛してくれた。 そんな兄様は大学進学と同時に家を出てしまい、多忙な兄様に会えるのは身内とはいえども限られた時間で、それでも兄様は多忙な合間を縫って僕との時間を作ってくれたが、それでも一緒に住んでいた時よりは格段と減ってしまい寂しかった。 兄様と同様に歳の離れた幼馴染の(あきら)に言わせれば十分会っているらしいのだが、愛する兄様に家を出ると告げられた時は一月は泣き暮らし、体調を崩す程だった僕には辛いのだ。彰や両親等、周囲に心配を掛けてしまった事は本当に申し訳なかったが。 二週間ぶりの待ち望んだ電話に、焦る心を抑えて指でしっかりとスマホ画面をスライドして電話に出た。 陸、と、兄様の声が僕の名前を呼んだ瞬間、今まで抑えていた気持ちが一気に爆発して兄様の言葉を待たずに喋り出してしまう。 「兄様!電話してくれたって事は仕事は落ち着いたの?元気にしてる?ずっと兄様と話せなかったから僕……」 思わず零しそうになった、寂しいという言葉は慌てて飲み込んだ。弟として愛する兄様の理解者でいたい気持ちと、自分も井坂グループの人間なのだ。僕だけに構えない兄様の立場は理解していて、優しい兄様を困らせたくはない。 久しぶりに話せるのだと思うと感極まって目に涙が滲みそうになる。それぐらい僕には嬉しいのだ。
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