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息を詰めて、兄様の次の言葉を待った。
『運命の相手を見つけた。一月後のパーティーでお前達に紹介したいと思っている』
一瞬にして頭の中が真っ白になった。心臓の音が煩わしい程に響いていて、何度も頭の中で兄様の言葉を反芻する。
運命の人を見つけた……?兄様が……?
ようやく理解した途端、僕に振り落ちてきたのは冷水を浴びせられたような恐怖と悲しみだった。ぶるぶると身体が震え始め、咄嗟に口元を抑えて小さく零れそうになった悲鳴を堪える。
電話越しで兄様が訝し気に僕を呼ぶ声が聞こえた気がするが、大好きな兄様の声なのに衝撃が大きすぎて反応ができない。
――怖い。僕を独りにしないで。
足底から込み上げてくる恐怖が僕の全てを支配するように激しさを増す。恐れていた未来がやってきた。
怖い。怖いんだ。
喉を絞められているような息苦しさがする。ボロボロと涙が零れ始め、ひゅっと喉から変な音が出てきた。過去何度も体験した過呼吸だとぼんやりと理解していても、恐怖を抑えつけられない。
『陸。陸、聞いてほしい。俺は運命の相手を見つけた今でもお前の事は大切に思っている。俺が見つける事ができたんだ。俺と比べようがなく人に愛され、俺の自慢である弟のお前に同じ幸福が訪れない筈がない。だから何も恐れなくていい』
兄様が宥めるように僕の名前を何度も繰り返し呼ぶ声がする。自慢の弟という言葉が胸の内に熱く響いて、ぎゅっと握りしめられたように苦しくなる。
僕は兄様の弟。大好きな兄様の吉報なんだ。僕の感情なんて関係ない。
涙が溢れながら、荒い呼吸が兄様に聞こえないように震える手でスマホを遠ざける。大好きな兄様の事をひたすらに思い浮かべ、情けない自分を叱咤してどうにか呼吸を落ち着けた。
まだ息苦しさはあったけど、それでもどうにか電話越しでは誤魔化せる程度の状態には戻れたと思う。
一呼吸を置こうと強く息を吸えば、思い切りが良すぎてけほっと咳き込んでしまった。
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