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第二章 女子校の友達との出会い
出来すぎたタイミングなのだが、俺達が十八歳の時に雄輔は急激に体調が悪くなり、長引く事なく死んだ。
そもそも雄輔には、そんなに知り合いもいないので、通夜と葬式は近親者で行う事になった。
「生前は雄輔がお世話になりました、これから数日何かと隣で騒がしい事になると思いますが、ご容赦いただけたらと思います」
母は丁寧なのか良く分らない口調で、隣の万福家の人に挨拶をしていた。
自分と似た顔の人間がどんどん通夜の準備をされていく風景に、自分の通夜の準備をされているような気分になってきてしまい、こんな事でこの数日持つだろうか、火葬されて骨になっていくのを見守れる自信がなくなってきた。
これではいけない。ちょっと気持ちを落ち着けなければ。
死んだのは雄輔で俺ではない。気持ちを内側へ向けてはいけない、外側へ向けなければ。
―外側へ。
ふと、何かの視線を感じた。葬式屋の人がウロウロしているから気づかなかったが、外から俺の家を見ている雰囲気がどこからか流れてくる。ゆっくり振り向くと桃風子が遠くから、俺の家の様子を見ているようだった。何かを確認するようにジッと見ている。
「桃風子…?」
見た目は桃風子に似ている違う人なのだろうか。何か声をかけた方が良いのか迷っていると、わらわらと三人の女の子が目線をこっちに向けながら出てきて、桃風子の耳元で何かを言っているようだった。聞こえそうで聞こえない。
この距離で聞こえるわけがないと分っているのに、俺はこの話を聞かなければならない気がしてその場所から動けなくなった。そのうちの一人がタタッとこちらへ駆け寄ってきた。
「突然申し訳ありません。この家の方ですか?」
「はい…そうですが、何か御用でしょうか」
そう尋ねるのがやっとだった。何かよく分らないが、この子たちの雰囲気が普通じゃない。俺の事を値踏みしているようにも見えるし、全然興味などないというようにも見える。
「大変失礼な質問になってしまうのですが、亡くなられたのは雄輔さんで間違いないでしょうか」
「そうですが…あの、あなたは雄輔の生前のお知り合いの方でしょうか」
絶対知り合いじゃない、とわかりながらも尋ねないわけにはいかなかった。知り合いじゃなかったら、なぜ雄輔の事を確認するのか。
「雄輔さんではなく、桃風子さんの友人です。答えてくださってありがとうございます。失礼いたしました」
静かにお辞儀をして、その子はまた桃風子の方へ帰って行った。
今度は聞こえなくてもわかる。
「ちゃんと死んでいるよ」
と、報告しているに違いない。それしか確認されていないから、他に報告する事柄がないからだ。
桃風子とその子達の登場で、あれは何だったのだろう…と考えていたため、通夜その他もろもろの間、冷静でいられたように思う。桃風子の友達という事は、女子校の友達という事だ。同い年の女の子が群れている状態など、俺は共学で見慣れているはずなのに、あの子達は何か異質だった。
ふと頭に浮かんだのは「おまじない」という言葉だったが、
「いやいや…そんなおまじないで人が死んだりしたら苦労しないし。あっと言う間に、世の中、死人の数の方が多くなるわ」
と、その考えを否定した。
そこからまた時間が少し経つ。桃風子はぽつりぽつりとだが、俺と言葉をかわすようになった。考えは確信になる。
桃風子とあの子達は雄輔が死ぬような何かを行ったのだ。
「モモ、最近どうなんだよ」
「どうもこうもないし、気安くモモって呼ばないで」
相変わらずツンツンとしているが、返事をするだけマシになった。
違う学校へ通っているので、たまたま帰り道で会う事など、六年間で数えるほどしかない。会話が弾むような共通の話題も思いつかないので、仕方なく進学するのか就職するのかを尋ねてみた。
「女子大へ進学する」
「女子大? まだ女子しかいない所に進学するのか」
なんで女子校とか女子大とか、そんな所ばかりを選んでいくのだ。
大学生になり、それなりに色々と就職活動をして、どうにかこうにか何個か内定を貰い、途中二十歳の時に
「雄輔が早く死んだから、あなたが二十歳を迎えられるか心配だった」
と、母は少し快調に向かい、
「お前には色々苦労をかけたな。もっと自由に生きて良いのだよ」
と、父はお祝いなのか最後の別れなのかわからないような言葉をくれた。似たもの夫婦なのだなと思った。
そして働き始めて半年ほど経つ頃、桃風子が不思議な行動をするようになった。
大きな荷物を持って定期的にどこかへ出かけて、そして帰ってくる。一回、二回なら別に気にならないが、ほぼ毎日出かけていく。同じ場所に行っているのかどうかわからないが、背中にリュックを背負い、キャリーケースをゴロゴロ引いていた。
俺は桃風子の後を付けてみる事にした。
(続きは『アンソロジー女子校』にて掲載。全体9100文字)
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