プロローグ

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プロローグ

布団に潜って、耳にイアホンを指す。 それが私の唯一の居場所への入口だった。 YouTubeの再生リストに保存した数々の音楽と共に夜を過ごす。意図的に頭の中を音楽でいっぱいにする。最近ネッ友にボーカロイドとやらを教えてもらって、その歌詞に毎晩励まされている。 音量、もう少しあげようかな。 耳から流れるように入ってくる音楽の歌詞が、メロディもベースもリズムもその全てが、毎日負う傷を癒してくれる。私を受け止めてくれるのは、この音楽だけなんだよな。 イヤホンを外そうと右手を耳に近ずけて、やめる。 そんなことをしたら、また息苦しくなるだけだ。イヤホンの外の世界は、私にとって地獄でしかない。 お母さんの悲鳴に、お父さんの怒鳴り声。何か固いものを投げる音、床に叩きつけられるような痛々しい音。 いやだ、聞きたくない。二度と明日が来なければいいのに、といつも思う。ずっと音楽に身を任せていたい。ずっと歌詞に包まれていたい。明日が来たら、家族と顔を合わせなければいけない。新しい傷を負っている顔を見るのは心が痛む。 だから。 お願いです、神様。もう辛いんです。お父さんがお母さんを殴っているのを、もう見たくない。お母さんが家出するのを見送るのは、もうしたくない。 私に幸せをください。 そう何度も願っているのに叶いそうにないんだよな。 神様だってきっと辛いことあるんだろうけど、そういう時神様は誰に何を願うんだろう。 もう午前1時、か。 明日も学校だし、そろそろ寝ようかな。 イヤホンを指したまま、音量を少しさげて目を瞑る。夢の中くらいは幸せでいたいな、なんてしょうもないことを考えながら。 今晩も神様に会いに行く。
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