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「もういいわ。寒いし、疲れた。」 「うん。だいぶ身体を酷使しているだろうし、今日はもう寝た方がいいよ。寒さや外敵からはボクが覆い被さって守るから、お腹は何かで満たした方がいいよ。空腹はさすがにボクにはどうしようもないしね。」 「…どさくさに紛れてまた吸おうとか考えてないでしょうね?」 「まさか。契約外のことはしないよ。それに今キミの魔力なんて絞りカス程度しかないじゃないか。」  怒る気も失せた私は特にこれといった反応も返さずに、鞄の中から瓶詰めにされた生ハムサラダを取り出す。蓋を開けるとオイルに漬けられた美味しそうな赤色の生ハムとイチジク、そしてその両者を引き立たせる輝かしい黄緑色のマスカットが芳しい香りで私を出迎えてくれる。  私は原始人の様に裸のまま指でそれらを摘まんで、口に頬張る。生ハムの塩気と肉の旨味。イチジクのねっとりとした食感。そしてマスカットの上品なみずみずしい甘さが三位一体となって口の中に広がっていく。思わず強張っていた顔が(ほころ)んでいく。 「そんなに美味しいのかい? それ。」 「あんたみたいな魔力しか吸えない下等生物に、この美味しさは一生かけても分からないでしょうね。」  あれだけおしゃべりだったスライムが黙りこくってしまう。どうやら今の一言に相当気を損ねたらしく、私はしてやったりとほくそ笑む。嫌味も言えて心身共に満たされた私は、溜まりにたまった疲れがどっと押し寄せてきて、重力に引っ張られるかの様に横になる。このまま眠っても大丈夫かと一抹の不安を抱くも、約束通り身体中に生暖かい物が纏わり付いてきたので、死ぬことはないだろうと安心する。  …よくよく考えたら裸のまま寝られるなんて、女として終わっていると思う。あまりの気持ちよさに頭がイカれたんだなと思いつつも、瞼の重さに耐えられなくなった私はそのまま夜の世界に落ちていった。
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