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 そりゃ近くでごうごうとマグマが燃えたぎるのだから暑くて当然、とは分かっていたけど、いざこうして体感すると火口付近の熱量は想像以上に激しかった。辺り一面赤と黒の、安らぎという言葉が存在しない世界で、私は休むことなく歩を進めていく。とはいっても、少し休もうと岩肌にもたれ掛かろうものなら、ウェルダンのステーキが一瞬ででき上がるのだから、一休みなんてできるはずがないのだけれど。 「いやー暑いねー火口は。こんなとこにずっといたら干物になっちゃうよ。ねぇ、もう帰ろうよ。卵盗めた所でドラゴン達に殺されるのがオチ」「用もないのに喋らないで。腹に響くって何度も言ってるでしょ…」  お腹の虫にしてはやたら流暢(りゅうちょう)に話しかけてくるスライムは、今私の中に寄生している。全身が水でできているスライムが当然水一滴すら存在許さぬ火口で生きていける訳がない。しかし契約を交わした以上は互いが裏切らない様に付かず離れずでないと、重い代償を払った意味がない。  水が数分ともたずに蒸発するような過酷な環境下で、この魔物が生きていく方法はただひとつ。体温を自分で調整できる術を持つ、恒温動物()に寄生する以外他に無い。スライムの心臓とも言える核を袋状の器官に入れる。たったそれだけのことだが、昨日の神龍の死体を取り込んだそれは、私の許容量ギリギリの大きさに変貌していた。水分の吸収効率をよくするために、腸内(お尻の穴)に入ると宣言するデカブツに私は全力で抵抗し、説得の末に膣内に寄生することで折り合いを付けたのだった。 「そんなに前屈みで歩いてたら転ぶよ? 」 「だから喋らないで。誰のせいでこなっていると思っているのよ。」 「こうなるのは分かっていただろうから、キミのせいだろうね。いいじゃないか。キミ達ホニュールイはお腹に子供を宿す生き物なんだろ? それがちょっと早まったと思えばいいだけのことさ。」 「…全て終わったら覚悟しておきなさいよ。一辺残らず灰にしてやるわ。」  生きていくには相応しくない炎獄の中で私は重すぎる枷を引き回しながら、卵の在処を探し回る。妊婦っていつもこんな重りを抱えながら日々を生きているのだろうか。縁が無い、あったとしても当分先の話だと思っていたけど、この重さを身を持って体験すると、いよいよ子を欲しがる女の気持ちが理解できなくなりそうだ。
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