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「えっ。うそ…」  谷側にある翼が吹き飛び、深紅の放物線を描きながら谷底へと落ちていく。いくら脆い所とはいえ精々傷を負わせる位だと思っていたのに、まさか切断できるとは思わなかった。予想外の出来事に呆気に取られるも、地を裂かんばかりの咆哮(ほうこう)にすぐに意識を取り戻す。私はすぐに土魔法の詠唱を始めて、杖を地面に突き刺しドラゴンの体を岩の針で串刺しにする。これも鱗で覆われた体をものともせずに貫き、ドラゴンは大量の血飛沫を放出しながらやがて息絶えた。生死を賭けた死闘はこうして呆気なく幕を閉じたことを、微動だにしない死体を見て悟る。  一体これはどうしたことだろう。  あのドラゴン種がこうもあっさり倒せるはずがない。老齢の個体で弱っていたのだろうか。そういえば目につくもの全てに襲いかかる気性が荒い種だと聞かされていたけど、私を見ても何もしてこなかった。あれはただの噂だったのだろうか…  次々と沸き上がる疑問を、頭を思いっきり振ることで物理的に払いのける。とにかくあれが何であれ危機は去ったのだ。依頼外だから報酬にはならないけど、スレイヤーとしてのお役目は果たせたのだ。今は五体満足で使命を全うできたことを素直に喜ぼう。私はそう自身に言い聞かせつつ帰還するも、頭の片隅でちらつく疑念が足取りを重くしていた。
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