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 眼前の私を傍目に毅然(きぜん)闊歩(かっぽ)するそれは、ドラゴンにしては立派な翼を持っていた。  翼龍の名に恥じぬ雄大で、翡翠色に輝く両翼。ワイバーン種にしては筋骨(たくま)しく、エメラルドドラゴンの数倍は青緑色煌めく鱗の数々。全てが宝石でできているのかと思わせる体躯が、天から注ぐ光を受けてその神聖さに磨きをかける。こんなドラゴンを見て惚けぬ者等この世にいないだろう、と思いつつも我に返った私はすぐに距離を取り、近くの岩場に身を隠す。  何だあのドラゴン。あんなのがいるなんて依頼主はおろか村民からも聞いてない。依頼主からは丘陵(きゅうりょう)をうろつくオーク共を根城ごと殲滅せよと言われただけで、そのオーク達が束になっても敵わない超危険モンスターを討伐せよなんて一言も言われなかった。街ひとつごとき軽く壊滅できるアレが野放しで、不意打ちの魔法一発程度で拠点ごと全滅する雑魚モンスターは討伐対象なんて、常識的にあり得ない。 「このままじゃ街まで来ちゃうかも…何としても倒さないと。」  私は眠れる獅子の如く近くで羽根を休めているドラゴン(脅威)に背を向けつつも、逃げ出さない様に何度も自身を鼓舞する。他の討伐隊と違って孤高な私は、魔法ひとつで数々の強力な魔物を倒してきた実績がある。  それでもドラゴン種に一人で立ち向かうのは自殺行為に等しいこと位は、スレイヤー(討伐者)にとっては常識中の常識だ。所謂『勇者一行』レベルのチームを組んでようやく挑める危険度を持つこのモンスターに、女魔法使い一人で挑んで勝ち目がある訳がない。だけど他の討伐隊と何のコネクションもない私が、今から街に戻って仲間を集める時間なんてない。
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