エピローグ

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あの夜を境に、俺は裏の組織を解体した。 バー「チェリオ」も店を閉め、レナママが買い取ると言ってきたので、それ 資金の一部に新たな場所で喫茶「チェリオ」をはじめることにした。 桜も爽太も莉音とも離れるつもりで打ち明けたが、この子ら三人だけは断固 として俺のそばにいると聞いてくれず、莉音に至ってはバーテンダーの夢は 夜に「チェリオ」を使用し「re:チェリオ」と店名をすることで実現させると いう荒業には正直驚いた。 裏稼業を永く続けてきた中で色々な大切なものを失ってきた自分が、最後の 最後に大切なものを手に入れることができるなんて思ってもなかった。 桜と爽太が俺のことを“お父さん”“オヤジ”と言っているところに最近は 莉音まで時より“お父さん”と呼ぶようになってしまった。 血は繋がらずとも四人が同じ大きなものを分け合うことで家族よりも家族に なれるのかもしれない…そんなことをふと考える。 それに___。  女性客の席で、何気なく会話の中に出てきた“元彼が最近ストーカーみた いな行動をしてきて困ってる”というつぶやきに、爽太がデザートを運びなが ら声をかけ。 「ねぇ、良かったらその話、私に詳しく話してくれないかな?力になれるか もしれないから。」 「えっ?あなたが??」 「…うん、実は私ね、何でも屋ってゆーか探偵業みたいなこともしてるんだ …試しに話してみない?」 その背中を見てハッとした。 爽太は、MIMAはもう殺し屋じゃなくてガーディアン(守り屋)として、そこに いる。 俺があの夜、求めた…今後の力の使い方、人並みはずれた能力を使って困っている人の力になれる人間に、願わくはなってほしい…それを体現しようとしている。 ……爽太。 荒木の視界が感情でぼやけてくる、目立たぬように親指で目元をぬぐいコーヒ ーを注ぐ。 本を読む白髪のカウンター客に差し出せば“子供たちが巣だっていく姿は、い つ見ても胸が熱くもなるが…淋しくも、ある…ってところかの?”。 悪戯っぽく眼鏡の奥の瞳を細めたのは、あの日から常連客となった後藤宗次郎 である。 「…さすがに会長の目はごまかせませんね?」 荒木が笑うと、宗次郎も“年季の差じゃの”とコーヒーをふくむ。 __カランカラン♪ 入口が勢いよく開き、まどかたちが来店する。 「こんにちは~っ!爽くん、いる?…ん?」 まどかは来た早々、爽太に声をかけようとするが雰囲気を察し“今はMIMA ちゃんタイムか”と、カウンター席に座る。 続いて糸山や金子が来店し、店内はますます賑やかになる。 「ほーっ、ここが爽太のお父さんの店かぁ…この薫り、わかるぞわかる!これ は素晴らしいコーヒーを飲ませてくれる店の薫りだ!間違いない。」 金子が店内をキョロキョロしながら見渡していると、荒木が“いらっしゃいま せ、いつもうちのがお世話になっているようで”とメニューを差し出す。 「いえいえ、こちらこそ!爽太くんのおかげで新規の営業も広がりましてね? あっ!これ全快祝いです。つまらない物ですが。」 金子がカウンターごしに紙袋をゴソッと荒木に手渡すと。 「本当、つまらないゼリーなんですよ?」 「そうそう、全快祝いなのにゼリーなんですよ?しかも自分の分はしっかり買 っているというゼリーなんです。」 まどかと糸山が横からガヤを入れると“うるさいよ!”と金子が返す。 店内はコロコロとした笑いと温もりに包まれ、裏で仕込みをしていた莉音も思わず“何々?何かすごく楽しそうなんだけど”と顔を覗かせて会話に加わる。 さらにお忍びで仕事の合間に桜が立ち寄り、ランチを食べにレナママとテンシ ョン爆美が立ち寄り、喫茶「チェリオ」の店先からは明るい声とそこに立ち止 まる縁を結ぶ新たな出会いがいつまでもいつまでも続くのであった。                               おしまい。
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