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1、「今日から“普通”になれ。」
その夜、“仕事”が片付いた直後に携帯にショートメールが届いた。
「MIMA、明日は二十歳の誕生日だな。今夜、店で待っている。爽太に戻って
から来い。」
オヤジ…つぶやきながら、その女は赤いショルダーポーチの中にスマホを押し
こんだ。
肩口より少し長めの黒髪はストレートで長く、小顔には少しつり上がった大き
な瞳と反比例するようにスッと鼻筋通っている。
紅くふちどられた唇は、厚みがあり、それでいてキュッと真一文字に結ばれて
いて女の芯の強さを物語っているようだ。
白のブラウスにベージュのスプリングコートを羽織り、黒のタイトミニからス
ラリと覗く足、肌は濡れた陶器のように瑞々しくそのまま赤いショートブーツ
に吸い込まれる。
小柄ながらに颯爽と歩く姿は、すれ違う者の興味を引き、露骨に振り返る男
もいれば、ため息をつくように目で追う同性もいる。
しかし、女は一向に視線を気にすることもない。
そんな感覚は、今の仕事をはじめてから何度目かの実戦を重ね、一人立ちの
最終試験を受けた夜に感情ごと消し飛んだ。
恥ずかしいとか、他人が見てるとか、人がどう思うとか、一般人が持ち合わせ
る受け身の感情こそコントロールする。
ターゲットの懐に飛び込み確実に仕事をする。
できないイコール、自分の命が消し飛ぶ、それはターゲットからばかりでは
なく、失敗し正体をさらせば自分が組織から消される現実。
当然のようについて回る“血の掟”を女は骨の髄まで知っている。
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